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ネコと少年とお局と

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「のろけじゃありません。結婚生活だってそんな楽じゃないんだからね?旦那の実家の両親とかにも気を使わなきゃいけないし。もう年齢的に子供も産めないからますます気使わないといけないからたまったもんじゃないし。」
「へーそんなもんかね。」
「そうよ。あんたも結婚したら分かるわよ私の苦労が。」
「苦労ってさ。したくて結婚したんでしょ?それにあんただって結婚なんか絶対嫌だっていってたくせにさ。」
「そりゃそういう時期もあったわよ。」
しばらくするとジンリッキーが手元に来たので佳奈はしみじみうつむきながらすすった。
「じゃあ今は?」
「何かね・・・この年まで働いてるとつくづく思わない?女はやっぱり結婚だって。もしくは自分で何か好きな仕事してバリバリ生きるか。あるいは男社会の会社でもふんばって出世してみるか。何かね・・・私も長年広告業界いるけどつくづく男社会だなって。私なんか長年営業やってたのにクリエイティブに長年いたような年下の男の後輩がいきなりやってきて突然部長に昇格よ?ほんとやってらんないわよ。」
「まあ・・・わかるけどさ・・・」
「あんただって経理課長代理なんてやってらんないって前言ってなかった?もういい加減諦めていい人探したら?40代なら頑張れば何とか結婚できるって。まあもちろん選ばなければだけどね。あんたみたいなきつい性格の女は包容力ある年上の金持ちのおじさんなんかいいんじゃない?どのみちその年じゃ同世代の男は厳しいだろうし。」
凜子はちょっと言い方がひどすぎるんじゃないかと思ったが唯一の友であった佳奈にだけは言い返せなかった。嫌われたら唯一の友を失うからだった。ただ孤独になるのが恐かった。
「そうはいってもいい人なんかいないよ。」
「そう?お見合いパーティーとか結婚相談所なんか行けば意外といるもんよ?私も知り合いにいいイベントパーティー紹介してもらってたまたまいい人いたんだから。」
そうはいっても佳奈は実はそれなりの美人だった。超がつくほどではなかったが顔立ちはまあまあ整っていて、おまけに実家は父親が医者を開業していて金持ちのご令嬢だった。美人で家柄がよければいい年したオバサンでも結婚できるんだと改めて思い知らされた。それに比べて自分はごく普通の平凡な公務員の家庭で育ち金持ちとは程遠い環境で育った。おまけに顔も母親似で特徴のない顔立ちで個性的とは到底言えなかった。凜子は自分の顔が昔から好きではなかったので、こんな顔に産んだ親をずっと恨んでいた。
「まあ、でもその年でよく結婚できたよね?相手年下だししかも親の会社ついでるボンボンで金あるんでしょ?」
「まあね。でもそんな大きな会社じゃないけどね。でも何か年上が好きで学生時代から今までずっと年上と付き合ってきたんだって。その話聞いたら何か気を許しちゃったっていうか意気投合しちゃってさ。気づいたら半年もたたないうちに結婚してた。」
「なるほど。そりゃよござんしたね。」
何だかのろけ話を聞かされてるみたいで凜子は次第に腹が立ってきた。そしてこれ以上話を聞くのもバカバカしくなってきたのでジンライムを頼んでもう一杯飲むことにした。
「ジンライムください。」
凜子がそういうと
「私さ、もうそろそろ帰らないといけないから、酒はほどほどにしないさいよ。もう若くないんだから。」
佳奈が遮るようにそうアドバイスしてきた。
「え、もう帰るの?」
「旦那が取引先の大事なクライアントをうちに連れてくるのよ。いわゆる自宅でやる接待っていうか、おもてなしってやつ。まあ料理は簡単に作ってあるんだけどね。それに半分はケイタリンでいいっていうからさっき来る前に頼んでおいたし。じゃあね。」
「うん、じゃあね。」
佳奈はジンリッキーを最後まで飲み干すと自分の分の飲み代をバーカウンターに置いてさっさと出て行った。
一人残された凜子は何ともいえない寂しさと虚しさを感じながら一人ぽつんとその後もしばらく飲み続けた。

家路に帰る途中。凜子はあれから何だかやるせない気分になったため、その後も立て続けに一人で飲み続けて結局10杯近くも飲んでしまったのだった。まさに大酒飲みといっていいほどだった。時刻はすでに11時を過ぎていて辺りは街頭の灯りをなくせば真っ暗闇になりそうだった。もどしそうなほど気持ち悪くなりながらもなんとか家路に向かった。駅から住んでいるマンションに向かう住宅街の途中で電信柱に向かって思わず吐きそうになった。いい年したオバサンが電信柱と格闘するなんてなんともいえず情けない姿だった。人に見られるのが嫌だったので暗がりの中をせっせとマンションへと向かうことにした。
マンションのエレベーターを上っていき3階へ着くと自分の部屋のある305号室へと向かっていった。凜子は吐きそうな気分だったので一番端にはる305号室がやけにエレベーターから遠いと感じた。
そんな中、重たい足取りで部屋の真ん前までくると、ある奇妙な物体らしきものがドアの前をふさいでいることに気がついた。飲み過ぎたせいで一瞬頭が回らなくて意味不明な光景のように思えたが、そこにはたしかに動物がいた。まだ頭がボーっとしていて目の焦点があってなく一瞬気のせいだと思ったがよく目をこらしてみるとその物体は猫だと分かった。凜子は思わず目を疑った。
「猫かい?」
ネコはぎろっとこっちを見た。黒い猫だったが凜子には何の種類だか分からなかった。
「ちょっとそこどいとくれ。部屋に入りたいんだよね。」
しかし猫は一向にどこうとはしなかった。
「ちょっとどきなさいって」
そう言ったものの猫は一向に反応しない。
「にゃー」
ネコは突然鳴きだした。
「ちょっと鳴いてる場合じゃないでしょ。」
しかしネコはこっちの意向などお構いなしに睨んでくるだけだった。
「ちょっと・・・勘弁してよ。明日も早いんだから。」
凜子はただでさえ疲れている上に酔って頭がくらくらしてたのでいよいよ我慢の限界に達した。
「ちょっとおどき」
凜子はついに堪忍袋の緒が切れたので、鍵を開けてドアを手前に引いて猫を無理やりどかしてしまった。
「にゃー」
ネコはやめてくれ、と言わんばかりに大きな声で鳴いたが凜子は部屋に入りたくて仕方なかったのでお構いなしにネコをどかした。
「ごめんよ」
そう言って凜子は部屋に入っていった。電気をつけると部屋が明るくなった。玄関に入るとすぐリビングがあり、その右横にはキッチンがあった。リビングには大きなテーブルとソファーとテレビがあり、キッチンのすぐ横には小奇麗な茶色のテーブルが置いてあってそこがダイニングになっていた。しかし、ノートPCなども置いてあって仕事机にもなっていた。リビングの左横には寝室やトイレやユニットバスのシャワールームがあった。寝室にはクローゼットもついていた。いわゆる普通のマンションの間取りといってもよかった。
部屋の中は相変わらず殺伐として生活に必要な必需品以外はまったくなく仕事の書類だとかが置いてあるだけで女性の色気のようなものはまったく感じなかった。唯一女性らしさを感じるものと言えば寝室に置いてある化粧品くらいなものだった。一人部屋に帰ってくると相変わらず自分は孤独だと思った。
作品名:ネコと少年とお局と 作家名:片田真太