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ネコと少年とお局と

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小学生の話なので要領を得ないが、ネコが好きというのはネコ好きでたくさん飼っているという意味なのだろうか?なるほど、直接の知り合いだからネットで里親を探すよりもずっと簡単だったんだ、と思った。でも、それにしてもそんな知り合いがいるのならお母さんはミルクを捨てたりしないでさっさとその人に飼ってもらうように頼めばそもそもはじめからこんなことにならなかったんじゃないのか?と思った。知り合いといえども猫を代わりに飼ってくれなんてなかなか頼みづらいことだからとっさに捨ててしまったのだろうか?よく事情が分からなかった。
「そう・・・分かった・・・よかったじゃん」
そう言いながらも凜子の声はどこか悲しげに聞こえた。

次の土曜日清太はミルクを自分のアパートへと連れて帰るために凜子のマンションへとやってきた。清太はまたしばらくミルクと戯れていた。
「にゃー」
ミルクも嬉しそうだった。
「清太は寂しいかい?ミルクが向こうにいっちゃうの」
「うーんちょっとだけ」
ちょっとだけか・・・と思った。意外とあっさりとしていたので凜子は驚いた。もっと寂しそうにしているかと思った。
「おばちゃんは?」
「へ・・・私かい?・・・別にそんな・・・いい年したおばさんがネコくらいでさ・・・ちょっと何言ってんのよ」
「ふーん」
清太はまた意味が分からないといった感じでそう言った。
その後もしばらく清太はミルクと戯れて遊んでいると夕方前になったので帰ることにした。
「じゃあね清太くん」
「じゃあねおばちゃん元気でね」
「ミルクも元気でね」
凜子がミルクに向かってそう言うと
「にゃー」
とミルクは眠たそうな目をしていった。
「おばちゃんミルクのこと忘れないでね・・・」
「そりゃ忘れないよ・・・」
「よかった・・・忘れちゃうかと思った。」
清太はほっとした様子でそう言った。
「そりゃこんなことあったら忘れたくてももう忘れられないよ」
「ふーん」
「さ、もう帰んな。もう遅いしお母さん帰ってたらまた心配するだろ」
「うんじゃあねおばちゃん」
何度もマンションに来ているし場所も近いので清太はアパートまで自分で帰れるようになっていた。清太は凜子にもらったネコを入れる篭にミルクを載せてマンションを出て行こうとした。
「清太・・・」
と凜子はとっさに呼び止めてしまった。
「何?おばちゃん」
凜子は少しだけ考え事をしたかのように下を向いたがその後
「ミルクがいなくなってもまたうちに遊びにきなさい。土日しか無理だけどさ」
と清太にそう言った。
「うん、ありがとおばちゃん。ばいばい」
そう言ってドアをバタンと閉めて清太はミルクを乗せた籠を大事そうに手で抱えながらマンションの部屋を出て行った。
「ばいばい」
閉まりかかったドアに向かって凜子は小さな声でそう言った。



そうしてミルクとさよならをしてから凜子は何か心の中がぽっかり空いたような気分になった。ずっとミルクから解放されることを願っていたはずだったのに、気付いたら共同生活者になっていて、そしてその後清太という少年と出会って・・・この短い期間に突然色々な出来事がやってきて、そしてそうかと思ったら急に嵐のようにすべてが去っていった。そしてそれが空しかった。とてつもなく寂しかった。
ミルクや清太と会っていた頃はしばらく会社でも部下に怒ることはなかった凜子だったが、また昔の凜子に戻って鬼お局に戻っていた。
「ちょっと、あんたこんなことも理解できないの?これでよく経理部に来れたもんよね?もう一度大学から勉強しなおして出直してきなさい」
いつにもましておっかない形相で部下を怒鳴り散らしていた。

そして昼休憩中に自販のある休憩室に凜子が入って行こうとすると何やら同じフロアの隣のブースの総務部の若手社員が自分の話をしているようだった。
「あの経理部の課長代理さ」
「あーあの鬼お局ね・・・」
「そうそれそれ・・・あいつがさ、何かしばらく穏やかだったけどまた鬼に戻ったらしいよ。経理部の同期のやつが言ってた。」
「はーまた鬼か・・・経理部のやつら可哀想だな」
「それがさ・・・何か噂によると男に振られたって話らしいよ。社内でもっぱら話題になっててさ」
「はーなるほどね。道理で不機嫌になるわけだ。あの年じゃ結婚厳しいだろうし、最後の望みだったのかな?」
「そうじゃねーの。そんなんでどばっちり受けるこっちの身にもなれっつーの。ってか俺ら経理部じゃないから関係ねーけど」
総務部の若手社員二人はそんな感じで自分の噂をしているようだった。
凜子は気にせず休憩室へ入ってき自販でコーヒーを買った。そしてまた素知らぬ顔で休憩室を出て行った。
「やべ・・・今の聞かれちゃったかな?」
「さあ・・・」



そしてそんな日々が続いて行った。もはや凜子は会社では毎日ガミガミ説教する鬼お局と化していた。部下があまりにも使えないので尻拭いさせられるのは自分だったため、責任を取らされる前に部下たちに説教することも必要だったのは事実だったが、必要以上にあまりに過度な説教をしていたのもまた事実だった。もはや自分の寂しさを埋めるためには仕方ない行為だった。
そしてそんな日々が3か月ほど続いた。


そしてある日曜の午後、突然清太が凜子のマンションへやってきた。
「久しぶりおばちゃん」
「久しぶり」
清太がなぜやってきたのか察しがつかなかったが、とにかく清太はマンションへとやってきた。
「はいどうぞ」
凜子は清太に紅茶を出した。
「ありがとうおばちゃん」
清太はお礼をいった。
「で・・・今日は何の用なのさ?」
「うん・・・」
清太は沈んだ顔をしていた。
「何?早くいいなさいよ」
「あのね・・・おばちゃん・・・」
「いいからもったいぶらないで早く言って」
段々凜子はイライラしてきてそう言ってしまった。
「ミルク病気なの・・・・もうすぐ死ぬって」
「へ?」
病気で死ぬ?何か大病か何かにかかってしまったのだろうか?
「何の病気なのさ?」
「よく知らない。でもがんって病気だって。お母さんが言ってた。」
がんってあの癌?
凜子はそれを聞いて驚いた。
「癌ってさ・・・あと何年生きられるの?」
ネコの癌の余命のことなど知らなかったけど人間の癌と同じくそう長くないのだろうと凜子は思った。
「三か月くらいだって」
三か月?あまりにも短くないか?
「三か月って・・・もうすぐじゃない」
凜子は少しショックを受けた。
「ねえ・・・ミルク生き返ったりしないのおばちゃん?」
清太はそう聞いてきた。
「それは・・・神様にしか分からないよ」
「神様に聞けば分かる?」
「そうだね・・・聞ければね・・・」
凜子はそう言った。
「ミルクにはもう会えないのおばちゃん?」
「いつか天国で会えるさ・・・」
凜子は清太を励まして言っているつもりがいつの間にか自分が泣きそうになってしまっていたのを必死にこらえてそういった。
「今度ね・・・ミルクのお見舞いに行くの・・・今度の土曜日おばちゃん暇?」
今週の土曜は無理だ・・・と思った。今は決算前で大いに忙しかったのでその日は土曜出勤をする日だった。また部下がミスをしでかしたので尻拭いのために出社してやるべき仕事もあったのだった。
作品名:ネコと少年とお局と 作家名:片田真太