ピアノマン
「え・・・なんだよ?」
「あはははは、あ、ごめんなさい。あなたって、なんか話し方面白くって。光栄ですなんていまどき言う?昭和じゃないんだから・・・」
「は?なんだよそれ」
優は苦笑いをした。
「あはははは、そのなんだよそれっていうのも面白い。」
「あんたね、初対面の人に向かってその笑い種の方が失礼かと思うが・・・」
「だって面白いんだもの・・・でも・・・ごめんなさい。」
「別・・・いいけど・・・」
「なんかますますあなたに興味持ったわ・・・あのお知り合いになれないかなって思ってさ・・・」
「知り合いに?・・・俺と・・・?」
「別にいいでしょ?あなた全く芸能界とか知らないわけじゃないし、音楽業界の人だって私たち芸能人とつながり全くないわけじゃないでしょ?お互い知り合いになって損することはないと思うけど・・・。というか超有名な私と知り合いになれるあなたの方がずっとメリットあるじゃない。普通は私がお願いされる立場なんだけど・・・」
何だ、この女は上から目線な上に自意識過剰の塊だな。アイドルってみんなこんなんなのか?世のオタクどもはテレビの中のぶりっ子に騙されてるのか?
「別に嫌だなんていってないですが・・・でもそっちが勝手にそう思うのは勝手だけど、こっちも別にお願いしてないよ・・・」
「あなたね・・・プライド高いはね。さすが芸術家。」
「ちょっとプライド高いってなんだよ?」
優はさすがにその言い方に少しむっと来てそう言い返した。
そうすると美樹は腕時計をちらっと見ると、
「あ、ごめんなさい。私これから人と会う約束あるのまた、今度ね。今日はあえてよかったは・・・また携帯の方に連絡するはね・・・じゃあね。」
そういうとさっさと帰って店の目の前の黒い車に乗って去って行ってしまった。
何なんだあの女。ホント腹が立つ。しかも、本当に本人だったのかあやしいもんだ。何かのいたずらかなんかなんじゃないのか?自分を貶めようとしている音楽業界か芸能界の誰かが・・・何かの策略?
今度、携帯に連絡が来ても絶対に取るもんか・・・
車の中で勝田が美樹に話しかけた。
「どうだった美樹ちゃん?その松田優って人は」
「うーん、イメージと少し違ったけどなかなか面白い人ね。また会ってみたくなった。」
「ちょっとーのめりこむのはほどほどにしてよ。そんな無名の人とコネ作ったって美樹ちゃん何のメリットもないんだからさ・・・」
「わかってるわよ、もう勝田には頼まないから私が個人的に会えばいい?」
「ちょっと~それも心配だな・・・美樹ちゃん何するかわかんないから。」
「じゃあ、どうすればいいのよ」
「うーん困ったな。上と相談していいかな?」
「ちょっと待ってよ、それは勘弁してよ。そんなことして、彼と会うの禁止にされたら困るじゃない」
「そんなに気に入っちゃったんだ彼のこと」
「別に気に入ったわけじゃないわよ・・・ただ面白いと思っただけよ。」
そんな会話をしながら二人は車で次の仕事の現場に向かっていった。
次の日優がガソリンスタンドで働いていると、彩が来た。
「優!」
「なんだ、どうしたいきなり?」
「どうしたって、せっかく会いにきたのに・・・近くに用事があったから優にこれ渡そうと思って」
そういって彩は優にチラシを渡した。ライブイベントのチラシのようだった。
「今度さ、渋谷でライブイベントがあって私キーボードで出演するからさ、見に来ないかと思ってさ・・・。優最近来てくれてないでしょ?」
「あーごめん最近バイトとかで色々忙しかったからさ。」
「これチラシだから、よかったら見に来て。友人として私が、一杯ドリンクサービスするから。バーみたいになってるから優の好きなサワーとかカクテルも飲めるよ」
「うん、了解、今度の土曜日の夜6時からね・・・たぶん行けるは。」
「よかったーありがとう!じゃあね。」
彩が帰りかけようとすると
「あ、あのさ・・・」
「え?何優?」
優は彩に藤谷美樹のことを知ってるか聞こうとしたが、バイト中なのでやっぱりやめることにした。
「いや・・・やっぱりなんでもない・・・」
「あ、そう、・・・うんじゃあね・・・」
そういうと、彩は去っていった。
バイト先の同僚が
「なんだよあの女、彼女か?」
「まさか・・・ただの友達だよ。」
「友達って音大の?なんだ・・・つまんねーの」
そういうと同僚はまた仕事に戻ってしまった。
バイト先の上司が
「おいこら、松田何やってんだ、さぼってんじゃねーよ」
と言ってきた。
「あ、はい、すみません」
優も仕事の方に戻った。
次の土曜日の夕方6時ちょっとすぎにハーフムーンという渋谷にある地下ライブハウスに松田優は入っていった。
優はカウンターでジンビームを注文した。鎌田彩の出番が来るまで知らないロックバンドの演奏を聴きながらジンビームを飲んでいた。
優はロックというジャンルはさほど好きじゃなく、彩に誘われてきただけだったので、周りのロックファンの人たちのノリについていけず一人壁によりかかりぼーっと見ていた。
何組か演奏が終わると、彩のインディーズのロックバンド「ラブアンドジェネシス」が登場した。
「えーみなさん今日は本当にお集まりいただきありがとう!ラブアンドジェネシスのボーカルのKenです。ドラムのNaoyaとベースのKiritoとキーボードのAyaです。ファンのみなさま、今日も熱いロックでフィーバーしちゃってください!ひゃっほう!」
優は彩のバンドのイメージカラー変わってしまったようで、びっくりした。以前まではポップスのバンドにいたので彩の様変わりに驚いた。
曲もなんだかうるさいフィーバーするような曲ばかりで好きになれなかった。
以前Ayaのいたポップスのバンドは好きだったが、このバンドは好きになれそうになかった。Ayaは学生時代からJPOPが大好きで常にオリコンチャートをチェックしているくらいのポップスファンだった。作曲家としてもインディーズやメジャーの歌手にいくつか曲も提供していてそれとは別にインディーズのポップス系のバンドの活動もしていた。優は彼女の作る曲は好きだった。でも、彼女がこんなロックバンドが好きだったなんて知らなかった。
自分の友達の知らない一面をこのロックバンドのメンバーは知ってるのかと思うと悲しかった。
ラブアンドジェネシスの演奏が終わって彼らは退場してしばらくすると彩が優に話しかけてきた。ライブハウスに設置されてるテーブルでカクテルを飲んでいたので彩も好きなモスコミュールを持ってきて向かいの席に座った。
「どうだった?」彩が優に話しかけてきた。
「あーなんていうか、かなり派手な曲ばっかだな・・・」
「何よそれ・・・よかったの、よくなかったの?」
「まあ、俺はあんま好きじゃないかな・・・ロックとか。でもよかったと思うよ。」
「相変わらず音楽に関してははっきり言うよね。普段ははっきりしないくせに。」
「なんだよ、それ・・・」
「でもさ、ロックが好きじゃないのに何で来てくれたの今日?」