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ピアノマン

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「おー卒業以来じゃん全然変わってねーな相変わらず」

優は加藤の隣に座った。

加藤は何年か作曲活動をしていたが、夢はあきらめて今はレコード会社で企画をやっている。

「お前まだ作曲続けてるの?」

「あーまあね一応ね・・・」

「すごいよな、その根性。俺なんて一曲採用されたらもういいやって。とてもじゃないけど食ってけないって思ってやめちゃったよ。才能に限界感じてさ。」加藤は笑いながら答えた。

鎌田彩は

「でも加藤くんすごいよ、一曲だけでも採用されたんだからさ・・・」

「何いってんの、現役バリバリのお二人がたがさ・・・」そう言って加藤は豪快に笑った。すでに少し酔っているようだった。

他の参加メンバーはもう一つの違うテーブルの席で教授と食べたり飲んだりしながら会話を楽しんでいるようだった。教授は何やら音楽について熱く語っているようだったがあまりよく聞こえなかった。

鎌田彩の隣には鈴木杏子がいた。しばらくヤマハでエレクトーンの先生をしていたが、今は結婚して自宅でピアノ教室をやっているらしい。もうじき子供も生まれるらしい。

「いいなーみんな何か好きなこと仕事にできてて。私なんてとっくに夢なんかあきらめてもう結婚しちゃったし」

「何言ってんのよ。いい人と結婚できたくせに。何か大手広告代理店の人なんだって?」

鈴木杏子はにこっと笑って

「まあね・・・合コンで知り合って私彼のことずっと狙ってて」

優はよく知らなかったが、彩は杏子とは仲が良いらしくて、結婚式にも参加していたらしい。

「結婚式でもさえてたよね、杏子の旦那さん。すっごい素敵だった!そうそう杏子もうじき子供生まれるんだって!?」

そんな感じで女同士のガールズトークが始まった。

優は会話についていかれないので黙って食事を食べていた。

「なんか少ねーよな、参加者」

加藤が話しかけてきた。

「え?」

「あっちの席にいる綾部とかはさ、ラジオ番組のBGM制作とかしてるだろ、専門学校で音楽講師もしてるし。でもさ、他の奴らはみんなもう夢あきらめてるしね。しばらくバンドやってた篠田とかも最近全く音沙汰ねーな。やっぱりみんな参加しずれーんじゃねーの。俺はさもうすっぱり諦めてるからお気楽だけどさ・・・」

「なんだよ、それ」

「そんなもんだって現実は。ゼミの仲間っていってもみんなライバルでもあったわけだしね。音楽なんてつぶしきかないし、みんな今頃苦労してるんじゃねーのかな。その点お前はすげーよな。業界である程度知られてるんだろ?」

「別に、まだ全然無名だよ。才能なんかねーよ」

「何いってるんだよ、ゼミの教授いったぜ、おまえのお父さん松田寮って

すげー作曲家だったんだって?」

「そんなにすごくねーよ。」

確かに晩年売れて今でこそそこそこ知られてるが、若いうちは鳴かず飛ばずで売れない作曲家だったのを優はよく知っていた。

親父は理想が高くて最後まで妥協しなかった。でもそのせいで最後の最後まで理想の曲が作れず死んでいった。自分もいずれそうなるのか、と優は思った。

「まあ、とにかくお前はうちのゼミの期待の星なんだから頑張ってくれよ!」

加藤は相変わらずいいやつだった。

久しぶりだっていうのに昨日までゼミに顔を出してたようなきさくな感じだった。

加藤が立ち上がり

「えーみなさま!本日お忙しい中お集まりいただきありがとうございます!話のお取込み中すみませんが、メインイベントです!本日我がゼミ高林教授が論文で賞を取ったとのことで、どうぞスピーチをお願い致します!」

高林を照れくさそうにしていると、

「さ!どうぞどうぞ教授」

加藤が教授が席を立ちあがるのを手伝った。

「えー、まいったなー何言っていいのか」

高林教授は本当に照れ臭そうだった。

「えー、平成○○年度卒業生の皆様・・・本日はお集まりいただきありがとう。えー・・・」

そんな感じで高林教授は自分が取った論文の賞の内容やどういった経緯の研究をしているのか、とかそんな話を話し始めた。

難しく退屈な話なので優は眠くなってしまった。しかしスピーチの最後の方で

「・・・えーみなさん、みんな音楽を愛してますか?音楽をやっているとなかなか思うようにいかないとか、色々と辛いこともあると思いますけど、それはみなさんの糧となり肥やしとなりやがてそういうのが自分にとって素晴らしいものだって気づくときがきます。今は辛いかもしれないけど、音楽をやっててよかったって思えたら素敵ですね。それに夢をあきらめた人たちもきっと、音楽が人生の支えになってることだと思います。素晴らしい音楽は常にあなたたちの体の中でメロディーを奏でています。素晴らしい音楽はあなたたちの人生とともにあります。では乾杯!」

「乾杯!」そういってみんなワインやらビールやらカクテルを飲んだ。

優は教授の話を話半分に聞いていたが最後の話だけ気になった。半分は感動したが、半分は疑問が残った。

確かに音楽は素晴らしいってそう思えたらいいが・・・





教授のお祝い会がお開きなり、みんなで酔っぱらいながら駅まで帰る途中だった。

教授は女性メンバーと楽しそうに話していた。

加藤は酔っぱらって色々な人と肩を組んだり絡んでいた。

優は彩と一番後方を歩いていて、二人で話していた。

「久しぶりだったけど楽しかったね!」

「ああ・・・」松田はいつもながらローテンションだった。

「教授が言ってたようにさ・・・私たちあきらめないで音楽続けようよ!

今は辛いかもしれないけどさ」

「お前は全然辛そうじゃないけどな」

「松田君なによそれ・・・私だっていろいろ苦労してるんだからね」

「あーごめん。何かいつも楽しそうだからさ・・・」

「別にいいよ。あ、そうだ!」

「有賀泉さんって優の知り合いでしょ?バイオリニストの」

「ああ・・・」

といっても彼女は卒業後に留学しその後は海外のオーケストラを転々としていたので、卒業以来一度もあってなかったが・・・

「でも、なんで知ってるの?」

「何言ってんのよ、キャンパスで一度紹介してくれたじゃない。バイオリン科の人だって。優時々キャンパスで彼女と会話してたじゃない。」

「そうだったっけ?あまり覚えてないや・・・」

「もう、すぐ忘れちゃうんだから。年寄じゃないんだからさ・・・今度日本でオケのコンサートに出るんだって聞いたよ。」

彩は本当に情報通だ。いろいろなところに知り合いがいるのかなんでも知っている・・・

「え、海外にいるんじゃ・・・?」

「何言ってんの、この前帰国したんだってさ、知らないの?」

「え?」

優は戸惑った。

有賀泉が帰ってきてる?

駅前まで来たので他のみんなと別れることにした。

優は教授にもお辞儀をして挨拶をした。

「じゃあね松田君!まっすぐ帰るんだよ?」

「お前もな」

そういって鎌田彩とも改札前で別れた。





自宅に帰ると優はベッドであおむけになって寝ころんだ。

優は泉のことを思い出した。

あれは忘れもしない、大学2年が始まったばかりの春のときか・・・

大学の練習部屋で聞こえてきた、バイオリンの美しい音色。
作品名:ピアノマン 作家名:片田真太