ピアノマン
「久しぶりー数年ぶりだよね?元気だった~?」
「うん、久しぶり、今度帰ってきたお祝いしようよ!」
「うん、ありがとう、日本帰ってきたばかりでしばらくバタバタしてるけど時間空いたらまた連絡するね」
そういうと有賀泉は携帯の通話を切って空港バスに乗った。
藤谷美樹はマネージャーに運転させてドラマ「そよ風の恋」のサントラの決定会議の場所へ向かっていた。
「ちょっとー美樹ちゃん関係ないのに何で出席するのよ?僕会社の仕事たまってて忙しいんだけどさ・・・」
「いいでしょ、ドラマには音楽だってすごい重要なのよ?勉強になるじゃない?」
美樹はそう言ったが本音は、松田優という作家が気になっていた。
あれからインターネットで検索して調べたのだが、以前自分が人気が出る前に脇役で出たドラマ「せせらぎの中で」というドラマのサントラを松田優という作家が担当していたことを思い出したのだった。地味だが本当にいい音楽で美樹はいまだに覚えていた。
ドラマ「そよ風の恋」のサントラのコンペの打ち合わせの会場
ドラマの一話目などの実際の撮影されたシーンをスクリーンで流しながら
候補のBGMを流しながら、決定していくといったものだった。
松田優は和賀に招待されたので席についた。和賀はそれを見てにやっと笑った。
美樹はマネージャーと一緒に席についた。
決定会議が行われた。何曲か色々な作家の曲の候補がシーンとともに流れた。
松田優の曲が流れた。美樹はそれを聞いて何とも懐かしい気分になった。
やっぱりどこか懐かしいというか聞いたことあるようなメロディーだと思った。
しかし、最後に和賀直哉の曲が流れ終わると、プロデューサー同士の話し合いが行われ、しばらくすると結果が発表された。ドラマのプロデューサーが「和賀直哉の曲に決定」と言い、会議は終了した。
松田優は席を立ち、スタジオの廊下を歩いていると、和賀が話しかけてきた。
「いやー残念だったなー!お前の曲も結構いい曲だったのにな・・・お前の曲はいい線いってるけど何かが足りないんだよ。ドラマを見たいって思わせる何かが・・・だから落ちるんだよ。まあ、これでいい勉強になっただろ?はははは・・・」
と優の肩を叩いて笑いながら去っていった。
「なんだあいつは?」
相変わらずの和賀の嫌味っぽい意味不明な言動に優はため息をついた。
スタジオの休憩室の自動販売機でジュースを買って松田優は休憩していた。
すると、そこに勝田マネージャーが現れた。
「あの、作曲家の松田さんですか?」
「はい、そうですが・・・」
いきなり見知らぬ男が話しかけてきた優は少し当惑した。
「あの、私勝田と申しまして・・・アイドルのマネージャーをしております。私が担当しているアイドルの藤谷美樹ってものなのですがね、あなたにお話がしたいってことで、少しお邪魔しまして・・・あの・・・ご迷惑じゃなければ連絡先をお渡ししようと思ってですね・・・」
「はあ・・・あのいきなりなんでちょっと意味が・・・」
松田優は当惑していたのでそう答えた。
「まあ、テレビ見てるなら藤谷美樹は当然ご存知ですよね?」
「いえ、すみませんが知りません。」
それを聞いて勝田はあきれ顔になった。
「そうですか・・・変わった方ですね・・・まあ・・・でも彼女がですね・・・
あなたに会いたいって言ってるんですよ?個人的に。ですが、あなたが信用できる人間か分からないので私が窓口になろうと思ってね。彼女の個人情報はトップシークレットで関係者以外公開禁止になりますから。」
「はあ・・・」
「なので・・・私の名刺をお渡ししますのでどうかご連絡いただけないでしょうか?時間はいつでもいいですので・・・携帯でも事務所の番号でもどちらでも構いませんので・・・」
そういって優は勝田の名刺を渡された。
「藤谷美樹?」
どっかで聞いた名前だ。顔は知らないが確か有名なアイドルだったような・・・
「事情はよく分かりませんが、とりあえずお預かりします。でも、どうして僕が松田だと?」
「あ・・・それは・・・・はははは、彼女がさっきのオーディションの最中に関係者に聞いて誰が君か聞いたんですよ。でオーディションが終わったら話しかけようと思ってたんですけど、きみが早々と会場を出て行ってしまったので私が追いかけたんですよ。それで追いかけたらあなたが休憩室に入ってくところを見たんで、ちょうどよかったから笑」
「そうですか・・・」
「じゃあ・・・確かに名刺お渡ししましたから連絡お待ちしてますね、では」
そういうと勝田と呼ばれる男は休憩室を出て行った。
優は事情を聴いて半分くらいは意味が分かった。しかし、自分に用があるなら
なんで本人がこないんだ?優は何て女だ、と思った。
2
松田優は眠いながらも自宅で起きた。
昨日勝田とかいう男からもらった名刺を眺めてみた。スカラープロダクションの藤谷美樹?どっかで聞いた名前だ・・・有名なアイドルの名前だったような気はするが同姓同名の可能性があった。有名なアイドルが自分に用などあるわけないと思ったからだ。いったい何者だ?
優はバイト先の同僚に藤谷美樹について聞いてみた。
「は?スカラープロダクション、藤谷美樹!!?え、あの藤谷美樹?」
「そんなに有名なの?」
「そんなこともしらねーのかよ」
音楽に没頭してあまりテレビを見ない優は名前をどこかで聞いたくらいだった。
「そういえばこの前うちに似た人来たって言ってたよね?」
「あああれか!・・・あれは誰か似た人でしょう!こんな無名の駅周辺のガソリンスタンドに超有名アイドルが来るわけないじゃん!」
「そうか、まあ・・・そりゃそうだよな・・・」
それを聞いてこの名刺なんかのいたずらじゃないか・・・?と思った。
そんな気がしてきた。そんな売れっ子のスーパアイドルが無名作家の自分に
用などあるわけがない。
藤谷美樹は「アイドル祭2016」に出演する予定だった。
また勝田の運転する車で現地まで移動した。
「ねえ勝田・・・今回この有紀凛って子なんか新人なの?なんでこの子がトリの私の一つ前なのよ?」
「ああ、凛ちゃんね・・・あははは。アニメ界でオタクに超人気で秋葉原からじわじわと人気が出て、今やオタクの間では女神様みたいな人気らしいよ?新人だけどめちゃくちゃ事務所に力があってね。メンフィスプロダクションだからね。だから美樹ちゃんの前なんじゃないかな・・・」
「ふーん」メンフィスは超大手のプロダクションでスカラープロダクションのライバルである。
でもだからって、なんで私の前なのよ?去年までは自分の前はそれなりの
ベテランアイドルでそういう慣例になってたはずなのに・・・
しかも自分は新人のときは前座をやらされてそれなりに苦労したのに・・・
美樹はそれが面白くなかった。有紀凛っていったいどっちが下の名前なのよ?変な名前だ、と美樹は嘲笑いたくなった。事務所のごり押しってこと??
「大丈夫だって。美樹ちゃん人気は今年もゆるぎないよ。ベテランなんだから堂々としてなって!」