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ピアノマン

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「あ、そうそう、これ来週からの予定だから目を通しておいて。」

そういいながら勝田は美樹にスケジュール表を渡した。

「あと、そうそれから・・・初めてだよ美樹ちゃん、おめでとう!ドラマ主演が決定しました!」

「ちょっとなにそれ聞いてないよ私。」

美樹は驚いてそういった。

「何言ってんの前からドラマ出たいって言ってたじゃない。僕が上にせっかくかけあってお願いしたのに・・・ってか僕が言わなくても前から決定してたみたいだけど。」

「そりゃ言ってたけど・・・でも主演はもっと演技の勉強してからって言ったじゃない」

「あははは。まあそうだけど、そんなの何年先になるか分からないでしょ?世間は美樹ちゃんが全国放送で早く女優として演技をするの待ってるんだから。

お父さん大俳優なんだから大丈夫だよ!」

「ちょっと私の親は関係ないじゃん・・・」

「とにかく頼んだよ!ドラマの内容とか脚本とか今決定段階だから詳細決まったらまた連絡します。」

そういいながら勝田は楽屋から出てこうとすると、一枚の資料が手元から落ちた。

『ドラマ「そよ風の恋」のサントラ曲のコンペ決定会議。興味のある関係者の方は出席お願い致します。』そのような内容のチラシのような資料だった。

「何これ?」

「ああ、これは美樹ちゃんには関係ないよ。サントラの方がまだ決まってないからって、一応もらったんだけど僕興味ないし、美樹ちゃんも直接は関係ないでしょ?なんかコンペの決定会議みたいなのを開くみたいだよ。実際に候補に挙がってるBGMをお偉いさんとかプロデューサーの前で聞いて決定するみたいだけど。」

美樹はそのチラシを見て

候補に挙がってる曲のタイトルと作家名を眺めた。その中に松田優という作家の名前があることに気が付いた。

「松田優?」どっかで聞いた名前だ・・・

でも美樹はなかなか思い出せなかった。




松田優はバイトが休みの日だった。

何年かぶりに出身大学である国見音楽大学を散歩しにいった。特に意味はなかったが久しぶりに母校に来てみたくなったのだった。相変わらずキャンパスの様子は変わりないようだった。自分たちが学生のころと変わらず学生たちは趣味の話や単位の話を道端でしていたり、楽器の演奏の音がそこら中から聞こえてきた。しばらくキャンパス内を歩いていると、自分が所属していた作曲科のゼミの担当教授である、高林健教授とばったり会ってしまった。高林は教授であると当時に以前はそこそこ活躍していた作曲家だった。

「久しぶり、松田君!」

「教授」

「何だー久しぶりだなー何年も顔を見せないから君のこと心配してたよ」

二人でしばらくキャンパス内を歩きながら色々としゃべった。

「何かあったのかい?」

「いえ・・・別に・・・何でですか?」

「いや・・・キャンパスに戻ってきたくなるなんて、何かあったのかと思ってね・・・」

高林教授は優の気持ちを悟ったかのようにそう言った。

「俺このままでいいのかなって・・・。音楽も中途半端だし、自分の方向性がいいのかわからないです」

優が思い切ってそういうと、高林教授はにこっと笑って

「方向性が分かってる人間なんていないと思いますよ。少なくとも、松田君の紡ぎだす音楽は僕は好きだけどね。大衆にこびてないし、かといって独りよがりでもない。何かきみにしか創れない感情にうったえるものを感じる。少なくとも僕はそう感じてるけど。」

「でも、なかなかうまくいかないんです。いいものがなかなか作れない。

自分の中でいいものだと思ったものでもなかなか採用してもらえなかったり。

数年前にたった一つのドラマのサントラを担当させてもらっただけで、それから全く仕事がないんです。もう自分は才能ないのかなって思って・・・」

高林教授はそれを聞いて続けて答え始めた。

「そうだね・・・まあ・・・芸術の世界というのは難しいからね。自分でいいと思っても他人はよくないっていうこともあるし。その逆もまたしかり・・・君のお父さんもかつてそんなこと言ってたよ。いいものが作れないって。君のお父さんと僕はまあ、ある意味ライバルだったんだけどね。まあ若いころの話ね・・・。若いころ君のお父さんは必死にいいものを作ろうとふんばってた。彼は自分には才能がないと本気で思ってた。でも僕から言わせれば彼は僕にはないものを持っていた。素晴らしい音楽を奏でてた。でも君のお父さんからすると自分の才能に不満だったんだろう。そんなお父さんもずっと苦悩した末に一つ名曲を生み出した。そんなものさ・・・苦悩して葛藤して時には休んで・・・そんな時代を経てやっといいものが生まれるんじゃないかな・・・今は君はまだ充電期間なんだと思う。来るべき時が来るまで。だからね、そのうちきっと君の作品はもっと評価されるんじゃないかと思う。実は、君の卒業制作の作品、私はすごい気に入ってるからね。だから君には期待してます。頑張って・・・」

そういうと高林教授はにこっと笑い優の肩を叩いてその場を去って行った。




とあるテレビ局でドラマのプロデューサーと会話をする作曲家の和賀直哉。彼は、優の国見音大時代の同級生で同じゼミの卒業生であった。

和賀はドラマのプロデューサーに

「ドラマ「そよ風の恋」のサントラはおれで決まりなんだな?」と念入りに聞いた。

「ああ、ほぼ100%決まっている。でも一応脚本家とか出演者とかさ、コンペの打ち合わせに出てもらって会議してるところ見てもらわないと納得しないでしょ?上の方がそうしろっていうし。まあいわゆるパフォーマンスだよ。」

「なるほど」

和賀はそれを聞いてにやっと笑った。



和賀は自宅につくと、松田優が依然担当したドラマのサントラのCDをかけた。

聞いてるとイライラしてきてCDをコンポから出して床にたたきつけた。

「くそ、松田め・・・」

和賀は松田優よりも成功している作曲家でCMやドラマや映画のサントラなどひっぱりだこの人気作家だった。しかし、松田優がたった一度だけ担当したドラマのサントラの曲の出来が素晴らしくてそれに執拗に嫉妬心を抱いていた。

和賀は松田に電話をした。

「もしもし」

優は電話を取った。

「おー久しぶりだな。お前も知ってると思うけど今度開催されるドラマのサントラのコンペの打ち合わせ会議あるじゃん?音楽関係者は出入り禁止なんだけど、俺は人気作家だから特別ゲストで呼ばれてるんだよね・・・俺の権限があればお前みたいな無名のやつでも招待してやれるけど、どうだ?」

相変わらず嫌味な言い方に少しむっときたが優は

「興味ないが・・・何でそんなのに誘うんだ?」

「お前だって興味あるだろ?ドラマのサントラで最終候補に選ばれるなんてやっと久しぶりにつかんだチャンスじゃないか・・・どうやって最終決定戦が行われるか興味あるだろ?そこでプロデューサーとかに声かけてコネとかたくさん作れよ。そうすれば今後もチャンスが広がるぞ?いいチャンスなんだからさ。」





成田空港。

バイオリニストの有賀泉は、搭乗ゲートを抜けて

空港バスに乗ろうとしていた。

携帯で友達に電話をかけた。
作品名:ピアノマン 作家名:片田真太