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ピアノマン

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それが藤谷美樹のコンペならなおさらだった。




優はバイトを何日か休んでこもって作曲活動をしていた。

でもなかなかうまくいかなかった。何しろアイドルの曲など興味ないし普段ろくに聞かないのでどうやって作っていいのかも分からなかった。

どうすればいいのかほとほと困り果ててしまった。

「はーどうすればいいんだ・・・」

優は大きなため息をついた。




そんなある日、優は自宅のボロアパートにあるぼろいテレビで藤谷美樹が心臓病かもしれないというニュースを見た。ニュースによると、すでに危険な状態になっていて手術の成功率も50%らしい。

「おい、ウソだろ?」

優はそのニュースが信じられなかった。

この前まで元気でぴんぴんにしていたのに、信じられないような話だった。。しばらく会っていなかった間に本当に大変なことが起きようとしていた。

ほんとお騒がせアイドルというか心配ばかりかけさせるやつだ。

藤谷美樹の事務所に電話をかけても詳しい事は教えてくれなかった。優はそもそも藤谷美樹と会うことすら禁止されているので、もっともなことだった。

何度も電話してようやく勝田につないでもらったが

「スキャンダル以来ストレスで彼女はこうなってしまったんだ・・・お前のせいだ」

と電話越しに罵られてしまった。

「彼女は・・・彼女は無事なんですか?」

「そんなことなんでお前に言わなきゃいけないんだ?彼女の病状はトップシークレットなんだよ。これ以上詮索するな?とにかく君は彼女とコンタクト取るのは禁止なんだよ?こっちに電話ももうするなといっただろ?」

「じゃあ、そちらの事務所はなぜ彼女の新曲の指名コンペなんかを開催したんですか?俺あてに?」

「そんなの知るか・・・美樹ちゃんが勝手に上と掛け合って社長を口説き落としたんだろ・・・俺は反対だったのに・・・いいからもう二度と彼女に会うな・・・」





ある日、藤谷美樹からLINEで連絡が入った。

「お元気ですか?私は今病棟にいて手術の準備をしています。あなたと連絡取ることは禁止されてるけど、病院の場所を教えます。」

その後病院の住所が書いてあった。

新宿の大病院のようだった。





優は新宿の病院にお見舞いに行った。

病院には関係者や張り込みなどがたくさんいて出来り禁止の自分は面会させてもらえないのかと思っていたが意外とすんなりと面会できた。勝田はしきりに彼女と会うなといっているわりにはガードが緩すぎるんじゃないかと思った。

優は彼女のいる病室の中に入った。

美樹は本当に来てくれるとは思ってなかったらしく驚いた表情をしていた・・・

「来てくれたんだ・・・」

「ああ・・・」

彼女はベッドで横になり、安静していた。

「元気?」

「元気なわけないじゃない・・・もうすぐ手術なのよ?」

「そっか・・・そうだよな・・・」

それもそうか・・・と優は思った。

しばらく二人は黙っていたが、美樹がゆっくりと話し始めた。

「私の心臓病・・・遺伝なんだと思う。遠い親戚の人とかおじいさんも若い頃に心臓病になったから・・・」

「そうなんだ・・・」

「仕事中に突然心臓が痛み出してね・・・救急病院に運ばれて、そこで検査を受けたら・・・心臓病だって・・・」

「そっか・・・」

「もう・・・今回ばっかりはダメかも・・・」

優は何て声をかけていいのか分からなくなった・・・

「そんなこと言うなよ・・・」

「だって・・・」

「お前らしくないな・・・何度もピンチを乗り越えてきたんだろ?」

「でも・・・」

「でももへちまもない・・・。頑張るしかないだろ。俺が曲作るから・・・それ歌ってもらわないと困る・・・だから治せよ・・・」

「あ・・・そっか・・・コンペ・・・あれ私が指名してあげたんだからね?感謝しなさいよ?」

「そうだな・・・」

「落ちたら承知しないから・・・スーパーアイドルの私が歌ってあげるんだから」

それを聞いて優は笑いそうになってしまった。

「何よ?」

「いや、いつものお前らしくなったなって思ってちょっと安心した。さっきまで今にも死にそうなくらい弱気だったから・・・」

「何よ」

藤谷美樹もつられて少し笑った。




松田優は自宅にいても散歩しても一日中考えてもいい曲が思いつかなかった。

曲というのは作ろうと意気込んでできるものじゃない。何かとっさにインスピレーションが起きないとできないものなのだ。

どうすればいいのか分からなかった・・・誰に聞いても答えなどない。

どうすればいいのか・・・

それはそうと優は必死に美樹の手術の無事を祈っていた。彼女は今でも病室で一人闘っている。自分の歌を彼女にどうしても届けたかった。そんなときふと頭の中に彼女との思い出が蘇ってきた。

初めて彼女と会ったこと、公園で再開したこと、海の見えるレストランのこと、遊園地でデートしたこと、アパートで喧嘩したこと、彼女の実家に行ったこと。

彼女との今までの思い出がフラッシュバックしてく。そんなことを考えているとふととっさにあるメロディーを思いついた。必死になってそのメロディーをつなぎあわせてPCに打ち込んだ。

一日中徹夜して、アレンジをした。何度も何度も打ち込みなおした。必死に作業してやっとできあがった。時間も忘れてやっていて気が付いたら朝方になっていてた。その後優は疲れ果てて寝込んでしまった。

夢の中で藤谷美樹に起こされた。

「ねえ、ねえ起きなって・・・」

は・・・何だこの女は?

「ねえ、もう何やってんのよあなたは?」

ふと我に返ってみたらもう昼の時間になっていた。

「あ・・・きょ・・・曲は?」

PCにデータが入ってるか気になった。

曲をもう一度再生してみた。ちゃんと完成されたメロディーが

PCから流れてきた。

「はー・・・」

よかったー・・・優は心の底からほっとした。

曲は今までにないくらい素晴らしいできだった。本当に自分で作ったのか疑問なくらいの美しいメロディーだった。

タイトルは瞬時に思いついた。

「絆-キズナ-」にすることにした。





手術の前日、曲が完成したので藤谷美樹のGmailにその曲データを送ってみた。

藤谷美樹は病室で一人その曲を聞いた。

「いい曲・・・」

藤谷美樹は少しだけ涙を流した。

「・・・私が歌詞を書いて歌ってみたい。」





手術の日、松田優は自宅で無事を祈った。何度も何度も必死に祈った。どうか治ってくれ。そう願った。




5時間にもおよぶ大手術の末、心臓病の手術は無事に終わった。術後の調子もよく順調に回復しているそうだった。オスカープロダクションは大喜びしていた。

藤谷美樹はだいぶ回復してから、松田優にメールを送った。

「無事手術は終わりました。後は手術後順調かしばらく様子見るみたい。」

「そっか・・・よかった・・・」

優は安心したと同時に心配から解放されてどっと疲れがでた。

しかし、藤谷美樹はしばらく安静にするため仕事は2ヶ月ほど休業をとることになった。




作品名:ピアノマン 作家名:片田真太