ピアノマン
「東京に行くとお父さんが借金地獄だった日々を思い出すから、東京にはいたくないみたい。お母さんにとってお父さんとの一番の思い出はあのボロアパートだからね。そこから二人は始まったわけだから・・・。だから・・・もうお母さんはずっと岐阜のあのアパートにいるみたい。」
家が別方向だったので東京駅で二人は別れることにした。何だか東京がとても久しぶりに感じた。疾走していたと思われる美樹が事務所に顔を出すと、事務所中が大騒ぎになった。美樹はスタッフ全員に心の底から謝った。ほっとしたものもいたが、お騒がせアイドルに疲れ果てているものもたくさんいた。勝田は美樹が帰ってきたことに半分は喜んでいたが、半分は怒っていて少しだけ美樹に説教をした。
「美樹ちゃん、本当こういうことは以後勘弁してよ・・・もうすぐ警察に捜索願い出すところだったんだからさ・・・」
「本当ごめん」
美樹はまた謝った。
松田優と藤谷美樹は警察にストーカー事件の真相を調べてほしいと思い、洗いざらい事件のことを話した。また、野々宮妙子という女優から恨みを買ってることも話をした。
警察はしばらく毎週のように美樹宅に差し出されていた脅迫文の手紙のことや、野々宮妙子のことを追って、やがてあることが判明した。差出元の住所は全く別の住人の住所になっていたが、野々宮妙子の所属する事務所の近くの3つのポストから定期的に怪文書が送られてきていることが分かった。時間帯も大体昼過ぎから夕方になっているようだった。
その3つのポストで一日中警察は待機して彼女が現れるのを待つことにした。
警察の張り込み当日。警察が待機しているところに、野々宮妙子が手紙を持って現れた。
「おい、お前ちょっと待て!」
警察はただちに野々宮妙子を包囲した。
「ちょ、ちょっと・・・何なのよ?」
野々宮妙子は訳が分からないという感じでそこにただずんだ。
「手に持っている手紙を見せろ」
「何よ?なんなのよ?」
野々宮妙子はまだ意味が分からないという感じだった。
「藤谷美樹からの依頼でお前がストーカー事件の犯人だというのは調査済みだ。」
「は?なんなのよ。何の権限があって?」
警察は全く遠慮せずに
「野々宮妙子、お前の事務所の近くの3つのポストから定期的に怪文書が郵便局の配送センターに届いているのは確認済みだ。」
野々宮妙子は警察の調べに驚いていたが、堂々と反論した。
「は?ちょっと待ってよ?だからってなんで私になるの?私が送ってるっていう証拠は?ほかの人が送ってるかもしれないじゃない。」
「動機からしてお前意外に考えられないからな。今その手元に持ってる手紙をこちらによこして見せろ。」
警察も負けずと野々宮妙子に食ってかかった。
「何よ、これプライバシーの侵害じゃない?これは友達に送る手紙よ。」
「いいからよこせ。見せられないのなら犯行を認めたことにするぞ?」
「ちょっとなんなのよ?」
野々宮妙子は必死に抵抗したが、何人もいる警察に手紙を横取りされてしまった。警察は手紙の封をやぶって中身を見てみた。
「お前を絶対に殺してやる 一番のファンより」
野々宮妙子はそれ以上言い訳ができなくなってしまった。
「なんだこれは?どういうことだ?説明しろ!」
警察は野々宮妙子にどなりつけた。
「知らないわよ・・・私は知り合いに頼まれただけ・・・」
「往生際がわるいぞ」
「本当に知らないのよ」
警察は野々宮妙子のことは信用せずに
「怪文書の脅迫罪とスキャンダル写真の名誉棄損罪で現行犯逮捕する」
そういうと警察は野々宮妙子に手錠を無理やりかけた。
「ちょっとなんなのよ?」
野々宮妙子が必死に抵抗しようとすると
「これであなたの方が終わりね・・・」
野々宮妙子が横を向くとそこに藤谷美樹が立っていた。
「藤谷美樹・・・あんたの仕業なの?」
「そうよ・・・悪人は捕まえなきゃいけないからね・・・」
「あんた・・・」
野々宮妙子は藤谷美樹をぎろっとにらんだ。
警察は野々宮妙子を必死に押さえつけていた。
「何で私だってわかったのよ?」
「まあ・・・何となく勘ね・・・最近では私に嫌がらせしてきそうなのはあんたしかいなかったからね・・・」
「勘って・・・ふざけるな!」
野々宮妙子は藤谷美樹にどなりつけた。
藤谷美樹は野々宮妙子のほほを思いっきり平手打ちした。
「ちょっと・・・何すんのよ!」
「ふざけてんのはあんたよ!私があの脅迫文と写真でどれけ迷惑したことか?どれだけ怖い思いしたか!スキャンダルのせいで事務所がどれだけパニックになったか!」
野々宮妙子は負けずと反論した。
「親の七光りの分際で何を偉そうに!普段から甘い汁吸ってるんだからあれくらい当然でしょ?」
「何が当然なのよ?言ってみなさいよ!」
野々宮妙子は急に薄気味悪く笑いだした。その後急激に怒り狂ったように話し始めた。
「私が・・・私がどれだけ苦労してきたかなんて知らないでしょ?あんたみたいに親のコネもないから、必死に努力して演技の勉強もして何百ってオーディションに落ちてやっと女優って座を手に入れたのよ!それなのに・・・あんたは親の七光りでアイドルやって金持ちで、おまけに大した演技の勉強もしてないくせして私たちの役まで横取りして。あんたは真面目に演技を頑張ってる私たち女優の敵なのよ!あんたの存在そのものが邪魔なのよ!」
野々宮妙子は言い終わってもまだ藤谷美樹を睨みつけていた。
藤谷美樹はまたもう一度野々宮妙子のほほを平手打ちした。パーンという音が鳴り響いた。さっきよりもさらに強い音だった。
「あんたは何もわかってない!私がどれだけ苦労したかって?そんなの芸能界でやってくんだったら当たり前じゃない!苦労するのは当たり前じゃない。それを自分だけが苦労してるって?何甘えたこと言ってんの!」
「だって、あんたは親の七光りで!」
「うるさい!」
藤谷美樹がどなると野々宮妙子はびっくりして黙ってしまった。
「その言葉はもうたくさんだわ・・・確かに私がブレイクしたきっかけは親のおかげだったのかもしれない。でもそれ以上に私は努力してきたし。それに・・・私・・・アイドルになりたかったわけじゃない。本当は父親みたいに演技をやりたかったし女優になりたかった・・・。」
「え・・・?」
野々宮妙子はそのことに驚いて茫然としてしまった。
「私は・・・本当は女優になりたかったの・・・でも・・・親が知り合いに騙されて、10億以上の借金抱えて・・・それで返済するためには女優だけやってたんじゃとてもじゃないけど返し切れない金額なのよ!私が・・・それ返すためにどれだけ大変だったと思ってるの?あんたみたいな無神経本当に虫唾が走る!」
藤谷美樹がそう言い終わると野々宮妙子は何も言えなくなってしまった。
「あんた・・・」
野々宮妙子はそれだけやっと言葉にすると、警察は彼女をパトカーの中に入れた。
「おい、早く入れ」