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ピアノマン

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「は?旅に出るって」

何かの冗談だろうか?



優は勝田に電話をかけてみた。

藤谷美樹が自分のアパートに来たことや書置きのことを話すと、

「ちょっと、またあなたですか。何してくれるんですか、せっかくほとぼりさめるまで自宅謹慎にしてたのに・・・ただでさえあなたの写真のせいで大ダメージなのに・・・事務所はもう大変なんですよ?もう電話かけるなっていっただろ?」

「そんなことより、彼女の居場所の心当たりないですか?」

「ちょっとそんなことこっちが知りたいですよ。」

「どこでもいいんです何か手がかりは・・・」

「そうですね・・・彼女は業界のトップアイドルでねたまれたり、ライバルも多いから東京に友達なんていないですからね・・・もしかしたら実家の田舎かもしれないですね・・・でも自分の田舎なんて帰っても友達なんてもう住んでないと思うけどね。」

「それだ!」

「ちょっとあなたどうするつもりですか?まさか行く気じゃ?こっちが捜索願いだしますからそっちはおとなしく・・・」

松田優は電話を切ってしまった。





松田優は彼女から一度だけ聞いたことがある実家の住所を思い出そうとした。

「岐阜の中川市中山町何とかのなんとかアパート」

中山町の先がどうしても思い出せなかった。

インターネットの地図で場所を調べてみた。

実際にあるようだった。

「ようし、いってみよう」





優は新幹線に乗って岐阜へ向かった。

新幹線の中で優は藤谷美樹のことを思い出していた。彼女との他愛もない会話がとてつもなく懐かしくなった。普段はあんなにわがままでがさつで生意気なのに、そんな暗い過去と大変なものを一人で背負っていたとは・・・

優は岐阜の田舎の駅につくと、タクシーで中山町まで行った。そこらへんの人に藤谷美樹の実家のことを聞くが場所が公表されてないらしく、知ってる人がいなかった。

優は仕方なくそこらへんのそばやで昼食をとってると、となりの二人のおばちゃんが

「美樹ちゃんも今大変なことになってるねー」と話してた。

その会話に優は飛びついた。

「おばちゃん、いや、おばさん藤谷美樹のこと知ってるの?」

「知ってるっていうか・・・まあ、藤谷さんとは昔からの地元の知り合いだからね。」

「場所、実家のアパートの場所教えてください!」

「場所教えてくださいっていったって、あやしいものには教えられないよ。あなたもしかしてその例のストーカーの関係者かいね?警察呼ぶよ!」

「ちょ・・・ちょっと待ってください。違います。彼女とは友達で・・・彼女スキャンダルのせいで自宅謹慎だったのに疾走してしまったんです。行方不明なんです。」

「え・・・疾走?そりゃ大変だ。わかった・・・2丁目のコトリアパートってところだよ。そこが実家。彼女の母親がそこに一人で住んでるから、教えてやんな。心配してるだろうからさ。ほらいきな・・・」

「ありがとうおばさん」

優はおばさんたちにお礼を言ってそば屋を出た。





優は2丁目周辺を探し回ってコトリアパートをやっと見つけた。

藤谷の表札があるからたぶん合ってるだろう。大俳優の実家にしては地味で貧乏くさいアパートだった。借金だらけなのは本当だったのか・・・

インターフォンを押しても誰もでない。隣のあばさんが出てきた。

「なんだいあんたは?藤谷さんなら買い物かどっかでかけてるんじゃないかい?夕方前は大体そうだから・・・」

「あ・・・ありがとうございます。」

優はしばらくアパートの前にかがんで待つことにした。

一時間くらいすると、50代くらいの女性が話しかけてきた。

「何か御用ですか?」

「あの・・・はじめまして・・・私藤谷美樹さんの知り合いで松田優といいます・・・」



優は藤谷美樹のお母さんの藤谷薫さんに家に上げてもらった。

「なんだてっきりこの場所かぎつけた野次馬かマスコミの方かと思いましたよ。何件かスキャンダルのことでうちに来たので・・・この場所は一切公表してないのにどこでどうやってかぎつけたんだか・・・マスコミの質問はうんざりなんです。」

「はあ・・・」

「あなた・・・作曲家の松田優さんですよね?」

「え?」

優はお母さんが自分のことを知っているのに驚いた。

「美樹からたくさん聞いてますよ。いろんな話をね。どこで出会ったとか、今日はどこどこの公園のベンチで偶然会ったとか、どこに行ったとか、家がぼろいアパートだとか、口癖が面白いだとか・・・楽しそうにね・・・っていってももっぱら携帯のメールに来るだけですけどね・・・」

「そうなんですか・・・」

「あの子・・・さびしかったんじゃないですかね・・・東京に出てからアイドルにはなれたけど、友達もほとんどいないみたいだし、外にも自由に出歩けないみたいだったし。そんな中あなたに出会えたことが嬉しかったんじゃないかしら?」

「いえ、僕は・・・何もしてませんよ・・・」

「よかったら美樹が帰るまで食事でもしてってください・・・」

「え?彼女帰ってきてるんですか?」

「ええ・・・たまに帰ってくるんですよ・・・まあ最近はもっぱら大忙しみたいだからほとんど帰ってこなかったんですけど・・・それが何か?」

優はスキャンダルの後彼女が疾走して行方不明になってることを話した。

「あれま・・・そりゃ大変だ。あの子何もしゃべらないから・・・ほとぼりさめるまでこっちにいるってそういう話しかしないんだから。あの子皆様に迷惑かけてるんじゃ・・・」

「事務所はパニックになってると思います。」

「ほんじゃ今すぐ東京に帰らせないとね・・・どこをほっつき歩いてるんだか・・・」

二人で食事をして、しばらく彼女のことを待っていたがなかなかかえって来ない。

「松田さん、もう遅くなるから今日は泊まってってください」

「いえ、しかし・・・」

「いいからいいから・・・」

藤谷美樹のお父さんが癌になって東京のマンションを引き払って岐阜に帰ってきたときには、美樹は高校生だった。藤谷美樹は、実家に帰るときは高校生のときに使っていた部屋で寝泊まりしているらしい。美樹の部屋は質素で何もなかった。高校時代の教科書とか写真とか思い出とかそういうものは何一つ置いてなかった。よく考えたら、高校のときお父さんが癌で療養しているときに少しだけこっちに住んでいただけなので、彼女にとって高校のころの思い出などは何もなかったのかもしれない。

ふと見ると、机の上にかつて優が担当したドラマ「せせらぎの中で」のサントラがあった。

それを眺めてると

「それ、あの子が好きなやつですよ。松田さんの作曲されたものですよね?

まだアイドルとして売れなかった時期とか何かあって悩んでるとしょっちゅううちに帰ってきてそのサントラ聞いてたんですよ・・・あの子が初めて脇役でちゃんとした役をもらえたドラマのサントラなんです。だから思い入れがものすごい深いんですよ・・・」

「そうなんですか・・・」

その話は美樹から聞いていたが、実家でも聞いていたというのは知らなかった。

「あの・・・藤谷圭さんとお母さんはもともとこちらに住んでいたんですか?」
作品名:ピアノマン 作家名:片田真太