ピアノマン
藤谷美樹は勝田に自宅に届いた、ストーカーからの怪文書を見せた。
「お前を愛してる、愛してる、殺したいほどに。世界一のファンより」
「ねえ?これ届いたの今日なの・・・それが何でもう週刊誌で話題になってるの?」
「それは、分からないけど。」
「これ送った本人が私のことつけて写真撮ってついでに怪文書の原本もマスコミに送り付けたってことじゃない?」
勝田は
「よく分からないよ。でもとりあえずほとぼりさめるまでは自宅謹慎しててよ・・・本当今事務所は問い合わせの対応でそれどころじゃないから。そのうちいろんなマスコミもかぎつけてくるよ。美樹ちゃんが事務所にいるといろんな面倒ごとおきそうだから。あーもう頭が痛い。」
本当に頭を抱えながらそう言った。
ドラマの主演の続編も棚上げ、出演番組や雑誌のインタビューの仕事は全部キャンセル。CMのスポンサーも全員降りてしばらくオファーがない。藤谷美樹は絶対絶命のピンチに追いやられた。
藤谷美樹は勝田にもっとこの事件の真相を調べるように抗議したが聞き入れられなかった。
「でも美樹ちゃんあの作曲家といざこざ起こすなってあれだけいったのに破ったんだからね?仕方ないでしょ?ほとぼりさめるまで、しばらく自宅謹慎してて!これ社長からの命令なんだから美樹ちゃんでも逆らえないの!」
藤谷美樹はそれを聞いて頭にきたが、社長命令ならばいうことを聞かざるをえない。勝田は、万が一のため美樹の自宅の賃貸マンションの前にボディーガードか警察を配備することを勧めたが、美樹はプライバシーがなくなるのが嫌なので断った。
「大丈夫よ、いくらなんでもそこまでしなくても・・・」
美樹は会社の指示の通りしばらくの間自宅謹慎することにした。
バイト先の休憩室で松田優はテレビを見ていた。藤谷美樹のスキャンダルが放送されていた。遊園地で美樹とキスしている写真は、テロップがかかってはいたが、自分だとすぐに分かった。いったい誰が写真を撮ったのだろう?周りに気配などしなかったのに・・・
バイトの同僚が
「おい、噂の藤谷美樹がスキャンダルだってよ。大変だなアイドルって。でもさ、あの遊園地の写真の男お前と髪型そっくりじゃね?まじうけるな」
そういうと同僚は笑いながら去っていった。
松田優は心配になって藤谷美樹の携帯にメールやLINEを送ってみた。
「おい、休憩時間終わりだぞ!何やってんだよ?」
店長に怒鳴られた。
「あ、はい、今いきます。」
野々宮妙子は自宅のマンションで藤谷美樹のスキャンダルのテレビ放送を見てにやにや笑っていた。
「これであの女も終わりね・・・あははははは」
野々宮妙子は大笑いした。
和賀直哉は自分の所属する作家事務所で社長に声をかけられる。
「おい、このストーカーの写真なんかテロップかかってるけどお前にそっくりだな。髪型とか服装とか。まさかお前じゃないよな?お前確か藤谷美樹のファンクラブ入ってたよな?」
「いえ、違います。他人のそら似でしょう。俺がそんな大胆なことするわけないじゃありませんか?」
「まあ、そうだよな?いくらなんでもそんなことするわけないな?」
「そうですよ、ひどいですね・・・あはははは」
そういったが、和賀直哉は内心ひやひやしていた。
この写真を撮ったの誰だ?
おれは怪文書なんて送ってねーぞ?いったい誰の仕業だ・・・?
有賀泉は本屋で雑誌を見ていた。トップ記事に藤谷美樹のことが書いてあった。
「藤谷美樹、ストーカー現る?自宅に届いた怪文書?」
「藤谷美樹 謎の男と遊園地デート?貸切コースで愛をはぐくむ?」
なにこれ?
久しぶりに日本に帰ってきたら、すごいことがニュースになっていた。
「何か時々テレビで見かけるアイドルさんね。大変ね・・・」
泉は、藤谷美樹とキスしている男の写真を見た。
「何これ、松田・・・くん?」
テロップがかかっていたが髪型や雰囲気で泉にはそれが松田優にしか見えなかった。
その男が着ている服も優がよく着ているパーカーだったからだ。
バイトが終わって、自宅のボロアパートに帰って松田優は携帯を開いてみた。
藤谷美樹からはメールもLINEの返事もない。携帯に方に電話をかけてみたが、留守番電話になっていた。
「はー」
松田優はため息をついた。
「何やってんだあいつ・・・」
優は居酒屋で彩と飲んでいた。
しばらく他愛のない世間話をしていた。
「あのさ、バンドのボーカルのリーダーがさ、ほんっとおっちょこちょいで、ライブハウス予約した時間間違えたりとかまじ勘弁してほしいのよ。こんなんじゃメジャーデビューできないっつーの」
そんな話をしていたが、優はぼーっとしていた。
「何ぼーっとしてんのよ。」
「いや・・・別に・・・」
「藤谷美樹さんのこと?」
「え?」
「それくらい知ってるわよ。優と写真写ってなかった?」
「ちょっと声大きい言って・・・」
「別に大丈夫よ。みんな聞いちゃいないから。」
彩までその話をしっていたのでびっくりしてしまった。
「なんで知ってるの?」
「え、だって大ニュースになってるじゃん。日本中が知ってるわよ・・・」
「そうじゃなくて、なんで俺だってわかったの?」
「何年あなたとつきあってると思ってるのよ?行動パターンくらいわかるわよ。あなたあまり自分のこと話さないけど、正直だから考えてることは分かりやすいもの。」
友達ながらも女の勘は恐るべし、と優は思った。
「それで、彼女大丈夫なの?」
「さあ・・・どうかな・・・連絡取れないから。」
「優・・・彼女のこと本気なの?」
「え?」
「だってこんな写真撮られるくらいだから・・・」
「別に・・・こんなわがままな女いくら美人でも好きじゃないよ。ただ誘われたから行っただけ。それに俺が好きなのは・・・」
「有賀泉さん?」
「え?」
「だって優学生時代からずっと彼女のこと好きじゃない。」
「まあ・・・でもさ・・・」
「でもさ・・・?」
優は沈黙してしまった。
「彼女は結婚してしまうから?どうにもならない?だからアイドルと遊んでる?」
「いや、違うそんなんじゃない・・・」
「あー優柔不断だな。昔っから優はそういうところ。そういうのって女の子に一番嫌われるからね?結局どっちも振り回すことになるんだから。本当最低だよそれって・・・」
「そうだな・・・」
「嘘よ・・・別にいいんじゃない?心が揺れるときだってあるわよ。私にだって身に覚えあるし。」
「ああ・・・」
「でも今はその藤谷美樹のことが心配なんでしょ?なら自分の気持ちに素直に行動したらいいよ。」
「ああ・・・ありがとう。」
優は次の日藤谷美樹のマネージャー勝田に電話してみた。
「もしもし?オスカープロダクションの勝田ですが・・・」
勝田が電話に出た。
「あの・・・松田優と申します。藤谷美樹さんはいらっしゃいますか?」
それを聞いて勝田は急に怒りだした。
「あんたか。いったい彼女に何してくれたんだよ!?今こっちは大変なんだ!責任とってくれ!」