ピアノマン
「そっか・・・私にはよく分からないけど・・・うまくいくといいね・・・」
藤谷美樹が優しくうなずいてくれて、優はますますドキドキしてしまった。
ドキドキを紛らわすために話題を変えようとした。
「でもさ・・・面白いこと思いつくって言ってもさ、遊園地貸切はさすがにないよな・・・?」
「は?・・・あのね・・・これ私が必死に考えたんだから。」
「だってさこういうのって普通恋人同士がやるだろ?」
「え?」
「ただの知り合い同士が、遊園地って発想がユニークだな。」
そういうと藤谷美樹は黙ってしまった。
「なんだよ突然黙って・・・」
優がそういうと藤谷美樹が急に話し出した。
「ならさ・・・なればいいじゃない恋人同士に」
「え・・・?」
しばらく沈黙が続いた後に藤谷美樹は身を乗り出して松田優にキスをした。
しばらく二人はキスをしていた。
松田優は突然何が起きたのか分からなかった。
二人はキスをし終えると、また沈黙してしまった。
「・・・何か言ってよ・・・」
「え・・・あ・・・ああ。」
松田優はびっくりしてしどろもどろになってしまった。
優からの反応がいつまでたってもないので、藤谷美樹はカバンを取って
「ごめん、私帰る。」
と帰ってしまった。
「え?」
優がふと我にかえったときにはもう彼女の姿はなかった。
今日はバイトの給料日だったので、無理して高級な鍋料理の店に有賀泉を連れてった。
「ごめん、今そそぐからちょっと待ってね。」
有賀泉は下を向いて元気がなさそうだった。
松田優はこんな高級な店普段はこないから手つきが慣れていなかった。
「あちっ!」
熱い鍋の湯が手にひっかかって優は思わず叫んだ。
「あ、ごめんごめんちょっとやらかしちゃった。」
優がおしぼりで手を拭いていると
「もう、いいよ・・・」
「え?」
「無理しなくていいよ・・・」
「え・・・何が?」
優は泉がいったい何の話をしてるのか分からなかった。
「私、見ちゃったんだ・・・松田君がガソリンスタンドでバイトしてるところ」
「あ・・・う・・・うん。」
「何で?何で嘘ついたの?」
「え・・・いや、嘘・・・ついたっていうか・・・」
「売れっ子でいろんなドラマやCMの作曲やアイドルのプロデュースしてるって話は?」
「実は・・・今まで1度ドラマのサントラを任されたことがあるだけ・・・」
「国見音大で常勤講師してるって話は?」
「元所属してたゼミの教授に、ゼミでアルバイトしないかって言われてちょっと手伝いで教えてるだけ・・・」
有賀泉は黙ってしまった。
「ご・・・ごめん。嘘つくつもりはなかったけど、話のはずみでつい・・・」
「松田君・・・変わったね・・・」
「え?」
「昔はこんな見栄を張ったり嘘つくような人じゃなかった。」
「・・・」
優は何も言い返せなくなってしまった。
「私が・・・私が松田君に何か悪いことでもしたのかな?」
「そんなことないよ・・・俺が自分で見栄張っただけ。有賀さんの演奏コンサートをホールで聞いたとき、大学のとき初めて練習室で聞いたときと同じような心地いいバイオリンの音がした。でも、大きな拍手喝さいを浴びてる有賀さんを見たら、何だか遠い存在になってしまった気がして・・・もう俺の手には届かない存在になってしまったのかなって・・・自分ももっとビッグにならなきゃって・・・」って・・・何言ってんだ・・・俺
「それで、それで私が無理をさせてしまった・・・ってこと?」
「別にそういうんじゃ・・・これは俺の問題だから・・・俺がいつまでも情けないだけっていうか・・・」
「・・・」
泉は黙ってしまったが、沈黙のあと少しだけ話し始めた。
「私ね・・・実は向こうにフィアンセがいるんだ・・・」
「え?」
それを聞いて優は少しショックを受けた。
「向こうの同じオーケストラで知り合った日本人なんだけど。彼はコントラバスやってて。何か気が合うっていうか、支えてくれるっていうか。彼とならヨーロッパでの生活ずっと続けていけるって思って。でもね、やっぱりずっと向こうで暮らしていくのって大変で。文化も価値観もいろいろと違うし。コミュニケーションだって生活だって大変だし。だからさ・・・ヨーロッパでの生活に少し疲れてたんだ。そんなときにね、ふとあなたのこと思い出した・・・
松田君どうしてるのかなーって。学生時代が懐かしいなーあの学食まだ同じままなのかなー日本戻りたいなーって。そんなときふと日本のオーケストラ楽団
がバイオリンを一人募集してるの知って、それで私その募集に飛びついて運よく受かったから日本に飛んで帰ってきちゃって。彼の反対押し切って。それでね、松田君に連絡取ろうと思ってたんだけど携帯の番号変わってたらどうしようとか、そんなこと全然考えてなかったからさ。わたし本当おっちょこちょいだからさ。でも、あなたの方から会いに来てくれた。コンサートホールで見かけたときは、本当嬉しかった。思わず、うきうきになってあなたのこと色々と誘って連れまわしちゃった。でも、本当いろいろなとこ行けて楽しかった。
それで、学生時代を思い出したんだ・・・私はあの頃松田君が好きだったんだなって・・・」
「え・・・?」
優はそのことに驚いた。
「驚いたかもしれないけどさ。」
「全然分からなかった・・・」
「松田君ってそういうところ・・・鈍いよね」
「だって・・・あのピアニストの彼と付き合ってたんじゃ・・・」
「あ、彼か・・・あの頃は一時的に好きだったかもしれないけど、でも彼もてるし浮気性だったし。卒業後も留学先が近かったからしばらく連絡とってたけど彼が他の女性とつきあい始めたの知ってすぐに別れたよ。」
「実は・・・有賀さん彼のことがずっと好きなんだと思って俺遠慮してた。」
「え・・・遠慮してた?」
「俺も・・・有賀さんのこと好きだった。」
「ちょ・・・ちょっと、だってそんなそぶり全然見せなかったじゃない。それに私が永島さんのこと紹介した後しばらく私のこと学食で避けてたよね?」
「あれは、彼に嫉妬して君に会いづらくなったから。」
「何で・・・あのとき言ってくれればよかったのにさ・・・」
「あ・・・でも今でも俺は有賀さんのこと・・・す・・・」
そう言いかけようとしたが・・・
「ありがとう・・・、でもごめん、それはもう無理だと思う。今の彼とは結婚の約束してるし彼のことは本当に好きだから。それに・・・松田君私の前で無理してるんならなおさらだと思う。」
「そっか・・・」
「うん・・・」
藤谷美樹の自宅のマンションにストーカーからの怪文書が届く。
藤谷美樹の事務所で、和賀直哉に迫られてる写真と、ドリームランドで松田優とキスしている写真や自宅に届いた怪文書が週刊誌に公表され話題になっていた。怪文書の送り主はこの写真のストーカーではないか?みたいなことも書かれている。
事務所は問い合わせの電話やメールやファクスが殺到していて大パニックになっていた。
テレビでも放送されている。