ピアノマン
「そう、それ。何かクールなんだけどこっけいみたいな。」
「あ、そ!」
「何それ、怒ってるの(笑)?」
「別に・・・」
しばらく沈黙が続いた。
「あ、そうだ・・・まあ、この前さ・・・料理作りにいったのにほとんど作ってもらっちゃったからさ・・・」
「もらっちゃったから?」
「・・・なんかお詫びしようか?」
「はあ?どういう風の吹き回し?」
「別にいいじゃない。何か私プラン考えとくからさ、その日は予定空けといてよ?」
「プラン?」
「何か面白いこと思いついたらまた電話かLINEする。」
「はーとてつもなく嫌な予感がするけど、まあ任せた。」
「了解!」
しばらく二人とも入力しなかったため沈黙になってしまった。
「何か・・・しゃべってよ・・・」
「いや、そっちがだろ・・・」
「私もう全部話しちゃったし・・・」
「俺も・・・もう特に用事ないよ。」
「そ・・・じゃあ私ももうシャワー浴びて寝なきゃ。明日早いし。」
「俺も明日バイトあるから・・・」
「OK・・・じゃあ・・・ね」
「じゃあ・・・」
そういって二人ともLINEを止めた。
藤谷美樹は何かもっと話していたいという感情が自分にあるのを感じた。胸がドキドキしてるのだろうか?
優もなんだか仲直りできてうれしい感情が自分の中にあるのが明らかだった。
7
それから1週間くらいたった後、
ガソリンスタンドのバイトの休み時間にLINEが入った。
「藤谷です。面白いこと思いついた!明日の夜空いてる?私夜8時から
予定がたまたま空いたから。」
「何思いついたの?」
「あれ、今時間大丈夫なの?」
「まあ、今昼の休憩時間だから」
「私も。まあ、何思いついたかっていうのはそれはとっておきの楽しみ。とりあえずさ、水道橋駅前に8時半に来れる?」
明日はバイトは夕方に終わるので大丈夫だった。
「うん、空いてるよ。」
「よかった!じゃあ、8時半に水道橋駅の改札前でね・・・私例のごとく変装してるからよろしく・・・」
「ああ・・・了解。」
「じゃあ私今から仕事あるからじゃあね・・・」
「ああ・・・じゃあ・・・」
そういってLINEを切った。
バイトの同僚が話しかけてきた。
「なんだよ彼女かよ?」
「いや、違うよ友達だよ。」
「なんだよ、つまんねーな。まあ売れない作家さんじゃ恋人なんて難しいか・・・俺も売れない俳優さんだからな・・・」
「まあ・・・な」
「あーどっかに貧乏でもおれのこと好きになってくれる子いねーかな・・・」
「さあ・・・」
「あー合コンいきてー」
その同僚は金がないのにやたら合コンに行きたがる。
バイトが終わった後に松田優は水道橋駅で藤谷美樹と8時半に待ち合わせした。
改札前で待ってると、後ろから
「わ!」
と話しかけてきた。
「びっくりした?」
「いや・・・何となく気配がしたから」
「何それ、気配って。エスパー?」
松田優はおかしくて少し笑った。
「どこ行くんだよ?」
優は聞くと
「着いてからのお楽しみ」
水道橋の遊園地ドリームランドについた。
「おい、誰もいないじゃん。明かりついてない」
「いいのよ・・・」
「おい・・・」
中に入っていくと、園内の全ライトがついた。
松田優は驚いた。
「全部貸し切ったから。」
「貸し切った?」
「そう、私が・・・」
何て女だ。さすがはスーパーアイドル。やることが違う。
「驚いた?」
「ま・・・まあ・・・あ、いや別に・・・」
「どっちよ?」
藤谷美樹はくすっと笑った。
「さあ、さっさと行くよ?」
「お、おい」
藤谷美樹のペースでジェットコースターやら絶叫マシーンやら遊覧船やらゴーカートやらメリーゴーランドやら散々振り回されていろいろ乗った。
二人で休憩の椅子に座った。
「わたしさ・・・アイドルだから自由にいろんなところ行けないのよね・・・顔が知られちゃってるし。特に男の人とどっか行くなんてことあったら事務所がうるさいし。だから遊園地になんて滅多にこれなくてさ・・・。最後に行ったのブレイクする前に女友達と行ったっきり。もう何年も前」
「・・・学生時代は?」
「実はね・・・全然モテなかった。私、そのときは地味だったから。高校の最後の方は田舎暮らしだったしね。今は国民的アイドルだけど、そんなもんよ。みんな周りはアイドルって昔からモテたでしょ?ってそんな話ばっかり。もううんざり。意外と地味なもんなのよ。」
「へえ・・・田舎ってどこ?」
「岐阜の方」
「へー」
「岐阜の中川市中山町2-1-5 コトリアパート まあ、私生まれも育ちもほとん東京なんだけど、両親の田舎がそっちの方で・・・本当田舎なんだから。田んぼとかたくさんあるし。本当昭和の街かよみたいな。子供は泥んこで遊んでたりもするし。東京じゃ考えられないでしょ?」
「そっか・・・・」
「あ・・・あのさ・・・」
「ん?」
「この前はごめん・・・無神経に音楽やめちゃえ・・・なんて言って。」
「あ・・・あれか・・・別に気にしてないよ。」
「何か会社のパンフレットとか机に置いてあったからそれで・・・やめちゃうのかと思って。ねえ、やめないよね音楽?」
「・・・やめないよ。ただ・・・」
「ただ・・・?」
「一時的に自信なくしちゃって、本当にこのままでいいのかなって。周りはみんなどんどん認められていくのに、自分は取り残されてくみたいな。事務所も・・・契約切られるかもしれないし。そんなこと考えてたら・・・自分の音楽ってなんなんだろう?こんなふらふらしてる場合じゃないって思って。そろそろいい年だし定職ついた方がいいかなって・・・」
「そっか・・・それで、就職するの?」
事務所の契約を切られそうだったんだ・・・それで悩んでいたのか・・・
「まだわからない・・・でも・・・答えを出すにはもう少し時間がかかる。就職したらしたで仕事に追われて音楽ができなくなるかもしれないし、忙しい毎日になると自分の音楽が変わってしまいそうで怖い。」
彼は彼なりに色々と悩んだり考えたりしてるのだな、と藤谷美樹は思った。
何だか、ドキドキしてきた。
「なら・・・就職しない方がいいよ。できなくなってしまうのは何か・・・いやだな・・・。って私が決めることじゃないけど・・・さ。」
「別に就職したからって全く作曲ができなくなるわけじゃないよ。仕事に慣れるまでしばらくは無理だろうけど慣れたら少しずつまたできるようになるかもしれないし。ただ、気持ちの問題なんだ。音楽って自分の感情から作るものだから、あわただしい日々に追われてたらいいものなんて作れなくなるのかなって思って。」
「そっか・・・あなたの音楽が変わってしまうってこと?」
「たぶんね・・・よく分からないけど。」
「それは、いやだな・・・私、あなたの音楽好きなの。変わってほしくない・・・」
それを聞いて優は少しドキッとしてしまった。
「あ・・・でもまだ分からない。それに音大の講師とかを目指す道とかもあるし。将来的には音楽教室を開くとか・・・いろいろ考えてる。」