ピアノマン
「5日以内だ。無理ならどうなるか分かってるな?一生を棒に振りたくはないよな?おじょーちゃん」
「わ・・・わかったはよ」
妙子は震えながらそう言った。
「ちなみに調査やら追跡やらに時間がぎょーさんかかったら落とし前として追加料金払うてもらうからな・・・」
暴力団と関わったことを妙子は後悔し始めた。でも、もう後には戻れなかった。
バイトの帰り道にまた行きつけの屋台のラーメン屋に寄った。
何度も来てるのに相変わらずここの屋台のおっちゃんは俺の顔を覚えてないらしくまたいつもの景気の話をしてきた。
「最近景気はどうですかね?」
「いや、どうですかね、あまりよくないんじゃないですか?」
この話題しかないんだろうか・・・
優はラーメンを食べながら彩の言った言葉
「あ、でもそれって彼女が優に心を開いてるってことなんじゃないの?優といる時間は、もう一人の本当の自分をさらけ出せる時間っていうか。」
思い出してみたが
「本当かよ」と思った・・・
でも一応メールしといてやるか、と思った。メールアドレスはこの前藤谷美樹がアパートに来た時に聞いておいたので知っていた。といっても番号もメールアドレスも会社の仕事用のものでプライベートのものは非公開らしいのだが・・・相変わらず彼女のプライベートはベールに包まれていて謎のままだった。
「この前はごめん。」
それだけ送った。長い文章で謝るのも何か癪にさわったのでそれだけしか送らなかった。
藤谷美樹はスカラープロダクションで打ち合わせが終わって、会社ビルの真向いの社員レストランの方へ向かおうとした。すると、後ろから和賀直哉が話しかけてきた。
「藤谷美樹さん・・・ですよね?」
「はい?・・・あなたは?」
「あ、申し遅れまして私、グローブエンターテイメントって大手作家事務所に所属する作曲家の和賀直哉と申します。」
和賀直哉・・・どっかで聞いたことあるような・・・
「ドラマ『そよ風の恋』・・・」
和賀直哉はそういった。
「あ・・・!ああ・・・・あなたがあの作曲担当の和賀直哉さんね・・・」
「思い出していただけましたか・・・」
「まあ、何となくだけど」
二人は沈黙になってしまったので、
「冷たいじゃないですか、ドラマの打ち合わせで何度かお会いしたじゃありませんか・・・たぶん目も合ってますよ?」
「そうでしたっけ?ごめんなさい、私人の顔覚えるの苦手で・・・で・・・その有名作家さんが私に何の御用ですか?」
和賀直哉は鞄から1通の手紙を取り出した。
「あの・・・ファンレターです。私あなたの大ファンです!ファンクラブにも入ってるんです。」
「あ・・・それはどうもありがとうございます。」
「あのこれ受け取ってください・・・」
「直接は受け取らないことにしてるんです。そういうのは一度事務所を通してるんで・・・」
「そんなことおっしゃらずに。何時になるか分からないから、私わざわざあなたのことここでずっと朝から待ってたんですよ。今日は藤本美樹さんはこちらで打ち合わせだって知り合いに聞いたものですから。夜まで待ってるつもりでしたので・・・」
「そうなんですか・・・でもお仕事がおありなんじゃ?」
「作家は自由業ですから暇なときは割と暇なんですよ?そよ風の恋のドラマはひと段落したわけですから・・・」
「そうなんですか・・・でも悪いですけど本当に受け取れないですから・・・」
「そんなことおっしゃらずに僕の気持ちです。」
「と言われましても事務所の方に送っていただくように決まってるんです。」
和賀直哉は強引に無理やりファンレターを藤谷美樹の手に渡そうとした。
「ちょっとやめてください!」
「いいじゃないですか、本当に好きなんです」
「やめてください!」
取っ組みあってる最中に手紙は二人の手の間でびりっとやぶれてしまった。
「あ・・・」
それを見て藤谷美樹はびっくりした。
「ごめんんさい・・・わたしこんなつもりじゃ・・・」
和賀直哉は下を向いて意気消沈しているようだった。
「ごめんなさい。」
和賀直哉は上を見上げてにっこり笑って
「いいですよ・・・気にしてませんから・・・」
そういって歩いて帰っていった。
藤谷美樹は首をかしげてその姿を見た。
その一連の流れをカメラでおさめてるものがいるとも知らずに・・・
藤谷美樹は勝田の車で自宅のマンションまで送ってもらった。
「美樹ちゃん今日もお疲れ様―。今日も雑誌のインタビューばっちしだったね!」
相変わらず勝田はハイテンションだった。
「うん」
美樹は今日現れたストーカーじみたあの作曲家との対応に疲れていた。また来たらどうしよう、と思ったら急に背筋がぞっとした。
「どうしたの?何かあったの?」
「いや、別に・・・」
「あの・・・例の松田優でしたっけ?あの作曲家とはどうですか?くれぐれも表ざたにならないでくださいよ?恋愛に発展したりとか・・・」
「大丈夫よ・・・それにあんなやつもうどうでもいいはよ。」
「え?」
「なんでもない・・・」
「まあ、別に問題ないなら僕としては全然OKなんだけどね・・・」
自宅のマンションの前につくと
「じゃあまた明日ね、7時頃迎えに来るから・・・」
「了解、ありがとう」
「じゃああね・・・美樹ちゃん。最近疲れてそうだから部屋帰ったらシャワー浴びてすぐ寝るんだよ?」
「わかってるはよ」
美樹がそういうと勝田は車を発進させた。
藤谷美樹は、マンションの部屋のソファにどさっと座って携帯を放り投げた。携帯を見たが、今日一日は忙しかったので携帯を見ている暇もなかったことを思いだした。
そこで携帯を開くと何通かメールが入っていた。その中に松田優からメールが入っていることに気が付いた。優からメールが来るのは初めてだった。
メールを開いてみた。
「この前はごめん。」
「は?何この短いメール・・・しかも全然悪びれてない。はー本当あいつプライド高い。自分から謝ったことないでしょ?」
よーしLINEを送ってやろう・・・
「なんなのよ?この短いメール」
自宅にいた優はLINEを見た。
「なんだ?めんどくさいな・・・」といいつつもすぐに返信した。
「別にいいだろ?謝ったんだから」
「謝ったって何あれ、全然感情こもってない・・・」
「そっちこそ謝ってないじゃん」
「だって・・・あれは・・・」
「あれは・・・?」
「わかったわよ・・・私も悪かったわよ。これでいい?」
「そっちも感情こもってないじゃん・・・」
「じゃあそれはお互い様ってことで・・・」
「なんだよ、それ」
「喧嘩両成敗ってことで・・・」
「なんだよ、それ、意味違くね?それって・・・」
「あはは、そうかも・・・」
「笑うところじゃねーし」
「そうかも。あ・・・」
「あ・・・って何?」
「なんか・・・久しぶりに聞いた。」
「何を?」
「なんだよ、それ・・・って」
「それが?」
「あなたの口癖。私それ好きなの。」
「なんだよ、それ?」