ピアノマン
「ああ・・・別に休みの日だからいいの・・・お互いの休みの日が合うときにたまに会ってるだけでしょ?演奏は普段の日でもうたくさんよ。もう限界ってくらい弾いてるんだから・・・」
相変わらず泉は努力家で練習量もすごいようだった。
「それよりさ・・・松田君最近はどういう曲作ってるの?」
「ああ・・・まあ・・・CMの曲とか、あとアイドルの曲作ってるからこんどレコーディング立ち会うんだ・・・」
優はとっさに嘘をついてしまった。
「へーすごいね。なんか業界人って感じでかっこいい。私クラシックの世界しか知らないから。」
「別に大したことねーよ。そんなやついくらでもいるし。」
「でもわたしたちの母校の国見音大で講師してるんでしょ?すごい。」
「まあね、一応」
講師といっても教授のお情けでちょっとしたバイトをやってるだけなのだが・・・
嘘ばかりついていたらなんだか急に自分が泉と釣り合う男みたいに見えてきてしまって変な気分だった。しかし、本当のことを今更言えなくなってしまった。
和賀直哉は自宅のネットで、藤谷美樹のオタクファンクラブが独自に入手した藤谷美樹のプライベートの変装写真を見た。
やっぱり・・・
和賀直哉は藤谷美樹の熱狂的ファンでその写真を目に焼き付けていたので
ボーリング場で見たときにぴんときたのだった。
藤谷美樹はその写真がネットに流出してることなど知らなかったが、熱狂的なファンが彼女を尾行してつきとめた数少ない証拠写真だった。
しかし、ファンの間で噂されてるだけで週刊誌には出てないので一般的には知られていなかった。
「何であの野郎が俺の美樹ちゃんと・・・?」
和賀直哉は嫉妬に燃え狂った。
松田優が自宅のアパートで会社説明会のパンフレットを眺めていた。
今まで会社勤めなどしたことがなかったしそのための勉強もしてこなかったのでパンフレットを眺めるだけで憂鬱な気分になってきた。なにより自分に会社勤めが合ってるのか疑問だった。しかし、いつまでもガソリンスタンドでアルバイトをしているわけにはいかなかった。
そんな中、突然インターフォンがなった。
「はい」
優がドアを開けるとそこにはサングラスをかけた藤谷美樹が立っていた。
「じゃーん!元気?」
藤谷美樹はサングラスを取っていきなりそういった。
「ちょっと・・・なんだよ急にびっくりするだろ!」
「ハローお邪魔しまーす。」
「おいなんだよいきなり・・・」
優はため息をついた。
「あ、ごめんこの前金曜日はバイト休みっていってたでしょ?」
「そりゃそうだけど何でここの場所分かった?」
「何言ってんのよバカね。だってこの前車でこっちまで送ってあげて来たじゃない?」
「そうだけど・・・」
でもよく場所覚えてたな・・・優はそう思った。
「ろくなもん普段食べてないだろうと思って、食事作りに来てあげた。台所借りるね?」
「は?」
そういって台所に行った。
「きったなーい、ちゃんと掃除してるの?カビとか生えてるじゃないの」
「ほっとけよ」
たまにしか料理など作らないから掃除してなかったようだった。
「ちょっと掃除してあげるから待ってな?」
そういうと藤谷美樹は台所を片付け始めた。その後買い物袋から材料を取り出して料理を作り始めたようだった。
しかし、しばらく料理しててもなかなか進まないようだった。
「おい大丈夫か?」
「うんちょっと・・・ちくわとピーマン切ったんだけどさ・・・」
「ちょっと何作ろうとしてるんだよ?」
「焼きうどん・・・」
「ならキャベツとか人参だろ?買ってないのかよ・・・」
「うん、うどんとちくわともやしとピーマンだけ・・・」
「いいよじゃあ近所のスーパーで俺買ってくるから。」
「あ、なら、ついでにビールもたくさんお願いねー」
「まったく・・・」
優は机から財布を取ってアパートを出て行きスーパーに材料を買いに行った。
「なんでおれがこんなことを・・・」
優が出ていくとアパートは突然静かになった。
美樹は優のアパートの中を見渡した。
「へーPCの前にキーボードがある。これでPCに打ち込んで作曲とかするのか・・・なるほど・・・」
そのあと美樹は、机に置いてある優が両親や弟と映ってる写真立てに入っている写真を見た。
「これがそのお父さんと弟君?」
壁には国見音楽大学の卒業証書が飾ってあった。
「国見音楽大学?あー何か聞いたことあるな。有名な大学じゃない?」
美樹がもう一度机を見ると、「中途採用 会社説明会案内」と書いてあるパンフレットを見つけた?
会社説明会?
優がスーパーから帰ってきてた。
「お前ちゃんと材料とか調べてから買ってこいよ本当に・・・」
「ごめんごめん」
「まったく」
そういいながら優は材料を取り出すと料理をさっさと作ってしまった。
「へー料理得意なんだ・・・」
「そりゃ一人暮らし長いからな・・・まあ、最近はたまにしか作らないけど」
「へー一人暮らしっていつから?」
「もう大学卒業した後あたりかな・・・」
「ふーん」
「ってかそんなことより、料理できないんだったら最初から作るなんていうなよ。何考えてんだよ。」
「別にいいじゃない、昔ちょっとやったことあるから思い出しながらならできるかなって思って。」
「それが安易な発想なんだよ。ずっと作ってなきゃ忘れるよ。料理をなめすぎだって・・・」
「そうかな・・・」
「そうだって・・・」
優はあきれてそういった。
「あーこれしいたけ入ってる。私苦手なのよね。」
作っといてもらってこの女は・・・
「わかったよ、じゃあ俺が食べるから。」
そういって優はしいたけを箸で自分の方に持ってきた。
食べ終わった後に、二人でビールを飲みながら、藤谷美樹がいろいろと笑い話や愚痴話をしだした。
「でね・・・そのプロデューサーって本当スケベであっちこっちの女優志望の女と寝てるっていうのよ。それで私もさ、じろじろ見られたことあって本当気持ち悪っておもってさ。」
少し酔ってるようだった。
優があまり元気なさそうに見えたので藤谷美樹は聞いてみた。
「どうした、何かあった?」
「あ、いや別に・・・」
「公園のベンチで何か悩んでたでしょ?それと関係あんの?」
「別になんでもないって、ちょっと酒飲んだら疲れてうとうとしただけ・・・」
「嘘つきなさいよ、ものすごい沈んだ顔で悩んでたくせに・・・何かもうこの世の終わりみたいな顔してたよ?なによ、うじうじしちゃってさ・・・男らしくない・・・言いたいことあるならはっきり言えばいいのよ。その方がすっきりするでしょ?」
その言葉に少し優はムッときたので
「うるせーな、じゃあお前は女らしいのかよ・・・」
そう言い返してしまった。
「あ、今ちょっと頭きた。何よ、曲が少しスランプに陥ったくらいでショック受けて悲劇のヒーローみたいにさ・・・」
「うるせーな、そっちがうじうじするなとかいうからだろ。こっちだって頭きたんだよ。」