ピアノマン
相変わらず意味不明な女だ・・・
「ねえところでベンチで何してたの?」
「別にどうでもいいだろ」
「あー何か悩んでた?もしかして・・・スランプに陥ったとか?」
「うるせーな。そっちこそスーパーアイドル様が都心の公園で何やってんだよ。」
「別にいーでしょ。私だってたまの休みにくらい羽根のばしたくなることあるんだからさ。変装してれば誰も私のことなんか見ないし。忙しい日常から解放されたくなることだってあるのよ。毎日毎日人に見られてばっかりでうんざりなのよ」
「相変わらず、自意識過剰だな。アイドルなんて人に見られてちやほやされたくてしょうがないやつらだと思ってたけどな。」
「何その偏見。純粋にアイドルになりたいって子もたくさんいるんだからね。ホントに失礼。撤回してよ。」
「別に。そういう人もいるかもしれないけど、あんたは違うだろ?」
「私の何しってるのよ。あなたこそいつもクールに孤独気取ってていかにも芸術家気取りよね。プライド高そうだし。」
「うるせーな。」
しばらく二人とも沈黙してしまった。
「あーせっかくの休日だってのに気分台無しだは。帰る。」
藤谷美樹は急に不機嫌になってそういった。
「ああ・・・帰れば?」
「そうする」
藤谷美樹はそう言いかけたが、なかなか帰ろうとしなかった。
「そうだ、私が帰る必要ないは。あなたが帰りなさいよ。私はもう少しここらへんぶらぶらしたいんだから。」
「なんだよそれ・・・」
本当めちゃくちゃな論理を振りかざす女だ。
すると、急に藤谷美樹は立ちくらみがしたかのようにしゃがみこんでしまった。
「おいどうした?」
「いや、ちょっと疲れてるだけ。」
「ベンチに座れば?」
「別にあそこまでいくの面倒くさい。あ・・・でも・・・」
「でも・・・?」
藤谷美樹は少しの間考え込んでいるようだった。しかし突然思い出したように話し始めた。
「あ、そうだ、あなた今日暇?まあ暇よね普段バイトしかしてないんだから。」
「あのな・・・」
「今日さ東京湾の夜景が見えるレストラン予約したのよね。でも友達にドタキャンされちゃってさ・・・あなた連れてってあげてもいいはよ?」
「なんだよその上から目線」
「別にいいでしょ。あなた普段ろくなもの食べてないんでしょどうせ?」
「うるせーな」
「公園のはずれに車止めてるからさ、はやくいくはよ」
優はもどもどしてると、
「ほら、はやくしなさいよ」
二人はレストランまで車で移動した。首都高を通って、東京湾のレストランの方へ向かった。
「アイドルが車なんて運転しないと思ってたけどな・・・」
「あなたなんでも偏見あるのね・・・意外と普通に何でもやるはよ。料理だってやるし。」
「え、嘘?」
「そのえって何よ・・・」
「料理とか絶対やらないと思ってたは・・・」
「うるさいはね。」
藤谷美樹は不機嫌そうにそういった。
東京湾が見える例のレストランに着いた。
まだ7時前だが冬前の季節なのですでにあたりは暗くなっていた。
「ここよ」
豪華な高級そうな西洋風レストランだった。
二人は席に着いた。しばらくするとウェイターが注文を取りにきた。
藤谷美樹はジャーマンポテトとクラムチャウダーとシーザーサラダを頼んでいた。松田優はこんな高級レストラン入るのなんて初めてだったので値段を
見てびっくりしてしまった。
「おい、ちょっとこの値段なんだよ?」
「え、高いってこと?あー払えないなら私が払うはよ?カードで」
「おい、ちょっとおごってくれなんて言ってないし。」
でも払えないのは事実だった。財布の中身をみたら3000円しか入ってなかった。
「ちょっとそんなところで男のプライド出さないでよ。別にいいはよ。売れないミュージシャンとか作家さんがみんな貧乏なの知ってるから。」
「いつもこんな飯食ってるのかよ?」
「まさか・・・何かお祝いがあったりそういうときだけよ。いくら私だって毎日こんなとこ来てたら破産しちゃうはよ。」
「で、今日は何かのお祝いだったわけ?」
「別に、ドラマの主演が初めて決まってこの前クランクインしたから、そのお祝いで関係者の知り合いが祝ってくれるはずだったんだけど、その人急に仕事ができちゃってさ。」
「へーそれで俺を?」
「そうよたまたま公園で会って暇そうだったから。」
「あのな・・・」
「そんなことどうでもいいじゃない。早く注文決めてよ。」
「あっと、じゃあ・・・」
一番安そうなハンバーグステーキとライスを頼むことにした。
「それ一番安いのだけどいいの?」
「あ・・ああ・・・」
普通の女が言うようなセリフじゃないと思った。
料理が来て二人で料理を食べながら会話をした。
「ねえ、あなた兄弟は?」
「何でそんなこと聞くわけ?」
「別にいいじゃない。世間話よ。食事なんだから普通何か会話するでしょうが。
もっと会話のキャッチボールちゃんとしてよ。」
「・・・弟が・・・一人・・・」
「へー意外。わがままそうだから一人っ子かと思った。」
優はわがままってどっちがだよ、と思った。
「そっちは?」
「一人っ子よ。だからわがままでしょ?」
何だ、自覚してるのか・・・
「弟さんは何やってる人?」
「・・・普通に東京で公務員をやってるよ。」
「へーあなたと全然逆なのね・・・あなたのお父さんは?」
「・・・作曲家・・・だった」
「へーそうなんだ。え、誰有名な人?」
「松田寮って名前。有名なのは「ガイアの街」って映画のテーマ曲かな。
でも有名なのはそれくらいだよ。若いころは全然売れなくてその曲がやっとヒットした。でも、その曲に親父は満足できなくて、晩年までそれを超える大作を作りたくって親父はもがいてたけど、結局作れなくてそのまま不完全燃焼のままあの世にいっちゃった。」
「あなた自分のこと以外になると結構よくしゃべるのね。へー、そっか。それであなたはお父さんみたいになりたくって作曲家に?お父さんを尊敬してるんだ。」
「別に・・・ただ何となく小さいころから音楽が自然にある家庭で育って、音楽の世界に惹かれてったってだけだね。繊細な世界にっていうか。」
「へーそれも意外。で、あなたの弟さんは何で作曲家にならなかったの?」
「うちの弟も音楽は好きだったけど、地道にこつこつ働いて生きる方がいいと思ったんじゃないのかな・・・。うちの親父音楽以外にも他に仕事してたけど、なかなか売れなかったし貧しかったからね。だからますます真逆の安定した公務員の道を目指したのかもしれない。」
「でも、あなたはそれでも大変な音楽なのね?」
「それは・・・何か親父の無念を晴らしたかったっていうか。何か不完全燃焼のままあの世に行くって悔しいじゃない?」
それを聞いて藤谷美樹はドキッとしてしまった。
真面目で純粋な性格なんだなと思った。意外な一面を見てしまった。
普段は自分のことは話さなくてミステリアスなくせに質問すると意外と色々な一面を見せてくれる。
「・・・何か質問ばっかだな?世間話とはちょっと違うと思うが・・・」