ピアノマン
「うん、いいよ。有賀さんが行きたいところならどこでも・・・」
「そう?よかった。じゃあ表参道に12時半くらいはどう?」
「了解、大丈夫だよ」
「うん、じゃあ・・また・・・」
「じゃあ・・・また・・・」
そういって電話を切った。
その日のバイトは体調不良で休むと電話することにした。
4
「ちょっとこれどういうことですか?」
藤谷美樹は事務所のオスカープロダクションの岡田プロデューサーにどなりつけた。
「どういうことって、そういう記事が出ちゃってことだよ」
見出しを藤谷美樹は大声で読んでみた。
「有紀凛、新星現る。藤谷美樹の時代も藤谷危機の時代へ!?世代交代か!?」
「何よ、これ!私は別にこんな新人相手にしてないの!」
「でもさー美樹ちゃん彼女ものすごい人気だよ!?最近のアイドルファンって昔と違ってオタクが多いんだって。アニメから火がついて、アキバで女神様扱いでしょ彼女?それから徐々に全国区になって。今やアニソンとか彼女が歌うの全部ヒットだし。おまけにルックスも女優顔負けでいいしトークも面白いからバラエティーもひっぱりだこだし。」
「何よそれ、私だって歌じゃ負けてないし。ドラマの主題歌とか歌ってるし。」
「美樹ちゃん・・・確かにそうだけど、今はもうドラマのタイアップとか全く売れないんだよ。CD全然売れないしさ・・・美樹ちゃんが売れてるのって歌でもドラマでもトークでもなんでもこなせるオールラウンドアイドルっていうのが売りだけど、そういうの残念だけどさ、もう時代遅れなんだよ。そういうアイドルって過去にもたくさんいたし。」
「何よ、それ私がありきたりだっていうの?」
「あーそうじゃないよ。。美樹ちゃんがスーパーアイドルなのは変わりないよ。でも時代は美樹ちゃんみたいな正統派じゃなくて、オタク系とか変わったアイドルを求めてるってことだよ。美樹ちゃんがブレイクしたきっかけっていうか、全国区になれたのだってある意味、お父さんが大物俳優の藤谷圭だったっていうのもあるし。マスコミがそれをものすごい宣伝してくれたからで。」
それを聞いて藤谷美樹はショックでブチ切れてしまった。
「ちょっと、それいくら岡田さんでも許せない!」
藤谷美樹は机を手でボーンと叩いて出て行ってしまった。
部屋から出て行って、事務所を通り抜けて廊下に出ると、野々宮妙子が後ろから声をかけてきた。
「あら、これはスーパーアイドルさんじゃありませんか・・・」
「何よ・・・あなた相変わらず暇人ね。何か用?」
「別に・・・ちょっと仕事の打ち合わせでこっちに用があっただけ。今度あんたが主演やるドラマの打ち合わせだっていうからわざわざオスカープロダクション様に出向いてあげましたの。でも当の本人は別の用事があるから欠席だって。主演の自覚と責任もないのかしら?出演者の皆様怒り心頭だったわよ?こんなんで視聴率とれるのかしら?心配で心配で気が気じゃない。」
「そんなこと知らないはよ。私別件の打ち合わせが昨日急にできたから、事前に私の意見書とかマネージャー通して提出してもらってたでしょ?私ものすごい忙しいから打ち合わせには出れないことがあるってあらかじめ全関係者に伝えてもらってるの。」
「それはそれは、さすがスーパーアイドル様は何やっても通用するんですね?恐れ入りますは。」
野々宮妙子の嫌味はスパイスがきいていた。
「あのね・・・あなた言いたいことがあるならはっきりいいなさいよ。」
「言いたいこと?そんならくさるほどあるけど、でもあえて言うなら、そんな態度が通用するのはスーパーアイドルでいられるまでだってことよ?」
「それ・・・どういう意味よ?」
「これ、見た?私今朝この記事見ちゃって笑っちゃった。」
それはさっきまで美樹が岡田プロディーサーにどなりつけてたネタの記事だった。
「有紀凛、新星現る。藤谷美樹の時代も藤谷危機の時代へ!?世代交代か!?」
「あはははは、笑っちゃうはね・・・あなたがスーパーアイドルでいられるも時間の問題ね。」
「そんな記事どうでもいいはよ。そんなアニオタの女神だかそんなの私は相手にしてないから。」
「そんなことあなたが言ったところでアイドルの人気なんて世間が決めることだからね。そんな態度とってられるのもいつまでかしら。あははははは」
そういいながら嫌味な態度で野々宮妙子は去って行った。
藤谷美樹はそれを睨んだ。
次の日曜日松田優はバイトを休んで有賀泉に会った。
表参道のレストランで一緒に食事した・・・
「どう、このレストラン?」
「うん、結構いいよ素敵な眺めだし」
「雑誌で見ていいと思ったけど、松田君にはどうかなーって思って」
「ああ、すごくいいよ、俺もイタリアン好きなんだ。よく来るんだたまに休みの日とか・・・」
「あ、そっか・・・松田君も売れっ子だもんね・・・こういうところ来るもんね・・・」
「え、あーいや・・・まあ」
「普段はどういうところ行くの休みの日とかは?」
「まあ、別に大したことないよ、そこらへん雑誌とかネットに載ってるフレンチとか中華とかか・・・な・・・」
「へーそうなんだ。今度どっかおすすめのあったら教えてよ。」
「あ、うんまあ・・・でも・・・」
「でも・・・?」
「あ、うんまあ・・・でも今度は食事じゃなくてどっか歩いてまわらない?
美術館とか水族館とかさ・・・しばらく日本いなかったから行きたいところたくさんあるだろ?」
「あーそうだよね。あ・・・そういえば学生時代は松田君とはコンサートとかライブたくさん行ったよね?そういうのもまた一緒にいくのいいな・・・でもコンサートとかはチケット取るの大変だし、スケジュールの都合お互い忙しいから合わないよね?なら、そういう気軽にいけるところの方がいいかな?」
「うん、まあそうだね・・・」
優はただ単においしい高級レストランのことなど知らなかったので、とっさに美術館やら水族館などと言ってしまっただけなのだが・・・
学生時代泉はもっと素朴で、学食や近くの定食屋に一緒に行ったのだが、しばらく海外生活をして食生活が変わってしまったのだろうか・・・
そういう話をしようとしたかったができなかった。
「じゃあ・・・今度は松田君がお勧めの美術館に行こうよ。また決まったら連絡してね!」
「あ・・・うん。」
美術館のことなどあまり知らなかったがそういってしまった以上は何か決めなければいけなくなってしまった。
泉はにっこり笑っておいしそうにパスタを食べた。
藤谷美樹は初主演のドラマ「それぞれの明日へ」の一話目の撮影のクランクインに入っていた。一話目の最初のロケ地である田舎の森林の生い茂っているキャンプ場のようなところだ。
「今回、立花沙希役で主演をやらせていただくことになりました、藤谷美樹です!まだまだ女優としては至らないところがたくさんありますが、ご先輩がたのご指導の元恥ずかしくない演技をつとめさせていただきます。どうそ宜しくお願い致します!」
パチパチと関係者各方面から拍手が起きた。