詩集 season~アンソロジー~紡ぎ詩Ⅶ
月並みな言い方ですが
あっという間の年月だったように思います
最初は顔を付き合わせれば喧嘩ばかり
しかも今から思えば実に他愛ない つまらないことが原因でした
結婚してまもなく待望の第一子を授かったときは
信じられないくらい嬉しかったですね
お互いに手を取り合って歓びましたね
早いもので
その娘がもう嫁に行くことになりました
これまで流れた歳月を思うと
これもまた月並みですが
本当に感無量の一言しかありません
次々に四人の子供を授かり
子育てに翻弄される日々には
新婚の頃のような夫婦喧嘩はなくなりましたが
今度は 子供が原因で喧嘩をするようになり
ーお前の育て方が悪い。
ーあなたが甘やかせるから。
互いのせいにばかりしていましたっけ
ー出来の悪い子を持つと親は苦労する。
お互いに自分たちが親に言われた言葉の意味を
自分が親になり初めて知ることになりました
早く子育てが終わり楽になりたいものだと
溜息交じりで話し合っていた時期
子供たちもまだまだ手が掛かり 幼かったですね
でも 今はもう子供たちそれぞれ成長し
親の手を離れようとしています
不思議なことに
長い長いと思っていた子育てがもう終わりかけた今
無性に昔を懐かしく思うのです
あなたは そんなことがないでしょうか
一番手の掛かった利かん気なお姉ちゃん
果たして嫁いで上手くやってくれるかしら
自信満々の本人には到底言えないけれど
正直 私は心配です
何しろ初めての子で 大切にーいささか大切にしすぎたくらい
可愛がって育ててしまいましたから
ですが
これからは私たち親の手を離れ
夫となる人と新しい道を歩んでゆくのですから
私たちは遠くから見守るしかできません
ただただ あの子の幸せを願いのみです
あなたと連れ添って25年
つい この間 結婚したばかりのようにも
大昔の出来事のようにも思えますが
もう そんなになるのかと自分自身でも愕いています
これからも 互いに元気で
一日一日を積み重ねて
☆ 「花**花ー心ときめく時間」
待ちわびた桜の開花
あっという間ですね
花の命は短いというけれど
短すぎます、、、
でも
桜が終われば
次は紫陽花
また大好きな花の季節がやってきます
そうやって
ひとつの季節ごとに その季節を象徴するお花が咲き
わたしのこころを癒やし のびやかにしてくれるのです
あ そういえば
紫陽花の前にもうひとつだけ
大好きなお花のことを忘れていました
それは
ネモフィラです
またの名をBaby blue eyes
その名にふさわしく
蒼く涼やかでありながら
凜としたただすまいは
いつだって わたしの憧れなのです
桜と同じか もしかしたら、それ以上に好きかもしれない
大切なお花です
聞くところによると
一面のネモフィラがひろがる見事なお花畑があるそうで
韓国に行くのも夢ですが
まずは先にネモフィラを見にいってみたいと考える今日この頃です
☆「かすみ草のように」
たおやかでいながら
逞しく
儚げでいながら
力強く
控えめでありながらも
常に誰かを支えられる確かな存在感
かすみ草のように
私はなりたい
☆「大地に根付けば」
もし この世に確かなものが一つだけあるなら
それは自分の気持ちだ
ーここがいや。あこそなら上手くゆくかもいれない。
今の場所から逃げ出すことは簡単
でも 自分自身が変わらなければ
どこへいっても
きっと同じ
しなかやな力を秘め
次々に花を咲かせる秋桜のように
どこにでも根付けるネモフィラのように
しっかりと踏ん張って大地に根付きたい
たとえ その場所がどこであろうと
花は咲かせられるから
「今、この瞬間」
この世の中
平凡な毎日でさえ 色々ある
時々 イヤになって
逃げだしたくなるけど
それでも こうして私は生きている
好きなドラマを観ることができる
小説を書いたり読んだりもできる
この世に生き生かされることそのものが
奇跡だと教えられた
この想いも
この時間(瞬間)も大切にしたい
☆「それでも私は生きている」
アスファルトの歩道に落ちる陽差しは
ほんの少しだけ力強く
ふと視線を持ち上げれば
歩道沿いの並木は緑豊かな葉をいっぱいに茂らせている
初夏の陽が真っ直ぐに樹々を照らし
エメラルドリーンに輝く
足下のアスファルトでは
生い茂った樹々が落とす翳が光の網を織りなし揺れている
生命が最も輝ける季節
鳥は木々の枝に止まり
高らかに生きとし生けるものへの賛歌を歌い上げる
私は前方へと伸びる歩道を一歩ずつ
踏みしめながら歩く
若い頃から
病知らず健康だけが取り柄だったが
寄る年波で病気にかかってしまった
人生には時として予期せぬ試練が降りかかる
不幸は時を選ばない
だが
この世に生きる人は皆それぞれの想いを悩みを抱えている
傍からは健康そのものに見える人でも
もしかしたら自分と同じ悩みを持っているかもしれない
上を見たらキリがない
下を見てもキリがない
だから
真っ直ぐ前だけを見つめてゆこう
この道の果てに何が待ち受けるのか
恐らく神様だけが知るのだから
哀しいことがあっても
悩みがあったとしても
それでも私は生きている
初夏の風にそよぐ涼やかな葉ずれの音
枝を渡る小鳥たちの愛らしい囀り
すべてがただ愛おしい
ーこの瞬間
うつろいゆく季を感じられる幸せを噛みしめ
私は歩く
一歩一歩 前へ
果てなく続くこの道を
☆「なつぞら縁日」
知らなかった
空がこんなに蒼いだなんて
セロリアンブルーの絵の具を一面に塗った夏空に
綿菓子のような入道雲が幾重にも重なって浮かんでいる
視線を動かせば
夏の風が
緑に染まった田んぼで稲を揺らしている
自然はこんなにもおおらかで
美しく
いつも側で優しく包み込んでくれている
ただ 私自身が気づかなかっただけ
走行する車窓の向こう
次々と風景が移り変わる
まるで
夏の縁日で子供のころに見た紙芝居のように
入道雲も風に流されて
少しずつ形を変えてゆく
いつしか ふんわりとした綿菓子がひんやりソフトクリームに変わった
エメラルドグリーンの田んぼの次は
常夏を思わせる紅い大輪の花が群れ咲く
どこかのお宅の庭先
まるで
林檎飴のようなポンポンとした花が美味しそう
人生は毎日が彩り豊かな縁日のようなものかもしれない
ただ自分が気づかないだけで
たくさんの小さな幸せと喜びは
誰の隣にもきっとある
☆「白糀・娘の色」に思う~しなやかに生きる
「姉がお嫁に行きたいと言いまして。それで、私が言ったんです。私が家業を継ぐから、お姉ちゃんはお嫁に行けば良いよって」
山形の老舗味噌屋の女主人の科白である。NHKBSのドキュメンタリーで、色にちなんだ山形で生きる職人の生き様を描いていた。この女性を象徴するのは「白糀」であり、「娘の色」だという。冒頭の科白は彼女が高校二年の時、好きな男に嫁ぎたいと言い出した長姉に向けてのものだった。
作品名:詩集 season~アンソロジー~紡ぎ詩Ⅶ 作家名:東 めぐみ