火曜日の幻想譚 Ⅳ
382.空気とストレス
自転車のタイヤがパンクした。
後ろのタイヤはベッコリとへこみ、がっこんがっこんと音を立てている。せっかくの休日、自転車に乗って散策に出かけようと思ったのに、これじゃ台無しだ。
仕方ないので自転車を引きずって、近所の自転車屋さんに足を運ぶ。そこは徒歩で30分ぐらい。自転車があればちょうどいい距離なのに、その肝心の自転車が動かない。まあ、休みの日だからどこかへ行こうと思っていたわけだし、自転車屋へ行くことになったと思えばいいじゃないかと自分を慰めるが、なかなか感情というものはきっちりと割り切れない。
さあ、自転車屋に着いた。そう思い目をやると、店が閉まっている。まさか休日の書き入れ時に休みはないだろうと思って近づくと、そこには『閉店しました』の文字。
あっけにとられて立ち尽くしてしまう。踏んだり蹴ったりとはこのことだ。取りあえず自動販売機でジュースを買いながら、どうすればいいか考える。
ここ以外に自転車屋さんがあるという情報は聞いたことがない。今、スマホで調べてみたが、やはり町内にはないようだ。かといって自転車も安くない、このまま置物にはしておくわけにはいかない。
ならば、この手しかない。偶然にもこの近くにホームセンターがある。そこでパンク修理セットを買って、自分で直せばいいのだ。私はパンクした自転車を駐輪場に停め、ホームセンターへと入っていった。
足を棒のようにさせながら近所の空き地までたどり着き、早速、購入したもので修理を開始する。チューブをタイヤから引き出し、空気を入れて水につける。しかし、一向に空気がもれているところが見つからない。何周も何周もチューブを回して水につけるが、空気はどこからも出てこないのだ。
もしかして、パンクではなく空気が抜けていただけなのか。そう考えてチューブを元に戻し、空気を入れて試し乗りをする。空気が抜けている様子はなく、そこには快適な乗り心地だけが存在した。
結局、自転車に振り回されただけの一日だったな。空気がパンパンに入ったタイヤと、ストレスでパンパンにふくらみきった心を携えながらつぶやき、沈む夕日の中、自転車を停めて家に入った。