火曜日の幻想譚 Ⅳ
388.有給休暇
体調を崩してしまったので、有休をもらって会社を休むことにした。
熱が出てフラフラする中、布団に横たわっていたが、明日の打ち合わせで出す意見をまとめておく必要があることに気が付いた。明日、出社できるかどうかはまだ分からないけれど、出社して何も言えないのは困る。だるい中、パソコンの前に座り文章をまとめる。もうろうとする意識の中で、われながら社畜だなあ、という自嘲の気持ちがときおり胸を刺す。
翌日。
無事に熱が下がり出社した私は、昨日、まとめた文章を打ち合わせで発表しようとする。しかし、そこに書かれていた文章は、あまりにも荒唐無稽で非現実的な案だった。熱を出した状態でまとめたので、このようになってしまったのだろう。
万事休す。私はあきらめて、そのわけが分からない案を発表した。すると意外なことに、それは好評を持って迎えられ、いくつかの指摘によって変更こそ加わったが、最終的にはその案で今後、仕事を進めていくことになった。すなわち、熱を出した時に考えた案が採用されたのである。
打ち合わせが終わったあと、めったに人を褒めない上司が私を手放しで褒めちぎり、今後もああいった案を出すようにとの仰せがあった。私はあの案が生み出されたいきさつを上司に話し、打ち合わせの前に熱を出して休ませてくれれば、あのような案を出すことができるとアピールをする。すると、上司は突然不機嫌になり、「そんなこと、できるはずがないだろう」と小声ではき捨てて、そっぽを向いてしまった。
まあ、結果は予想できていたが、こんな軽口ですら冗談として受け取ってくれないなんて。本格的に社畜と化してしまう前に、さっさと退職届を書いてずらかったほうが良さそうだ。そう思いながら、自分のデスクに戻り、残りの有休の日をこっそり確認した。