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火曜日の幻想譚 Ⅳ

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390.トイレのふたを開けたら



 便意を催してトイレに行く。さあ個室に入って用を足そう、そんなときの話だ。

 そこにあるのが洋式の便器だった場合、当然、用を足すには便座のふたを開けなければならない。和式ならいきなり下を脱いでもいいが、洋式の場合は、まず開けなければ始まらない。皆さんか私か、どちらかがトイレの使い方を間違えてない限り、ここまでは間違っていないはずだ。

 さて、ここからが問題だ。あのふたを開ける瞬間、私は子どものころから、いつも頭によぎっていることがある。ふたを開けた中に不気味なもの、具体的に言うと、人の生首が入ってるんじゃないかという考えだ。
 そこが自分の家のトイレなら、入っている見込みは低いかもしれない。とはいえ、物騒な世の中だ、自分の家に誰かが忍び込み、殺して切断した首を入れることもあるだろう。
 これが、外のトイレだと可能性は急上昇する。電車、駅、公園、お店……、さまざまなトイレにさまざまな人が出入りをしているのだ。そこに、倫理観の欠けた悪魔のような人間が、遺体の処理をしにきてもおかしくない。恐らく、切断された生首が入っている確率は、わが家の数倍にも跳ね上がるはずだ。
 恐らくだが、私は便座のふたより下の部分を異世界だと考えているのかもしれない。多くの不浄なものを流しさったあの場所は、自分にとっては日常ではない異界、そういう思いが強いのだ。そういう意味では、私は変わり者かもしれない。だが、同士は絶対にいるはずだ。ふたを開ける際に生首が入ってないかどうか一回でも考えたものは、恐れずに手を上げてほしい。

 何、そんなことはない、ばかげている? いやいや、よく考えてほしい。
 おなかが痛くてどうしようもない状況でトイレに駆け込み、そこで不意に便座のふたを開ける。もうおなかがギュルギュルといってる状況だ、後ろを振り返ってお尻を便器に向けようとしたその瞬間。視界の隅に入る紅色と褐色の何か。よく見ると便器内は血がべっとりとこびりつき、水に浮かぶ赤黒い生首の眼がこちらをにらんでいた……。
 どう考えても恐ろしいだろう。私なら絶対に漏らす。ただでさえ漏らしそうな状況で、こんなのを見せられるのだ。漏らさないやつは人間じゃない。私は運良く今までの人生で生首を見たことはないが、こんな目には絶対に遭いたくはない。

 え? 生首よりも、流し忘れたはいせつ物のほうがよっぽど目にするだろうって? 確かにそうだが、最悪、はいせつ物は流せるのだ。生首は物理的に流せないし、心情的にも流せないし、捜査の証拠保全としても流せない。

 そう、水に流せないという意味でも、この妄想は、小さい頃から私の頭にこびりついて離れないのだ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅳ 作家名:六色塔