火曜日の幻想譚 Ⅳ
395.ゲームと姉
僕の姉はゲームが下手だ。
下手なくせに、よく僕の部屋にやって来てコントローラーを握っていた。さあ、強敵に挑もうか、そんなときに限ってやってきて、姉の権力でもってコントローラーを奪い取る、そんな人だった。
弟としては迷惑なことこの上ない。もう少しで見たことのないステージへ行ける、もう少しでエンディングだ、そんなときに限って姉は、『GAME OVER』の画面を見せてくれるのだから。
コンティニューができれば別にいいだろう、そういう意見もあるかもしれない。だが、コンティニューを使わない、いわゆるノーコンクリアは当時、一種のステータスだった。僕はあるゲームが、姉の邪魔によってなかなかノーコンでクリアできなかったので、同じクラスの友人から、
「あのゲームは、ノーコンクリアはそう難しくはないよ」
と軽くあおられる日々を送っていたぐらいだ。当時、僕の立場が少々低かったのは、チャンスを打ち砕く姉のせい、と言っても過言ではなかったのだ。
そんな幼少期を経て、僕らは年を取り、お互い配偶者を得て子どもを授かることができた。
僕も姉も、久しぶりに家族を連れて実家に帰ってきている。今、僕らの目の前では、姉の娘と、その二つ下の僕の息子が対戦ゲームをしている。実力が伯仲してるのか、勝ったり負けたりで、実に楽しそうだ。
もしかしたら、姉はこんなやり取りがしたかったのだろうか。まあ、そうしようにも実力が伴わず、結果として僕の機嫌を損ねるだけになってしまったが。今、次世代の二人が仲良くやってるのを見て、姉は何を思うのだろう。僕はお酒の手を止めて、ちらっと隣を盗み見た。
そこにはすっかりでき上がって、ろれつの回らない口調で二人にエールを送るだけの姉がいた。しかし、その顔は、いつになく喜色満面な様子だった。