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火曜日の幻想譚 Ⅳ

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396.ゆで卵



 ゆで卵に何を付けて食べるかというのは、単純なようでいて結構、奥深い問題だ。

 統計を取ったわけではないので、軽々に断言してはいけないが、やはり塩がスタンダードということになるのだろうか。実際に塩で食べるとうまいのは確かだ。シンプルだからこそ引き立つ味。白身にも黄身にも合うという万能感。思わずもう一個、と手を伸ばしたくなってしまう。

 次に挙がるのは、熱狂的なファンも多いマヨネーズだろう。程よい酸味と中毒性のある油っぽさ、そして、卵黄が使われていることも興味深い。口内で奇妙な再開を果たした同族が、うま味に昇華していく様はまさにアメイジングと言える。年を取るとやや重く感じてしまうのだけは、ご愛きょうか。

 しょうゆというのも聞いたことがある。目玉焼きにかける人がいるのだから、適正は十分あるだろう。日本人に愛され、幅広く利用されるこの調味料は、ゆで卵という舞台でもその適応性を存分に見せつけてくれるはずだ。強いてあげれば、ちょっとサラサラしすぎて付けにくいのが難点だろうか。

 しょうゆが和の代表格なら、洋の代表格はソースだろう。特にとんかつソースの粘度はゆで卵にうってつけだ。味の濃さが強いので、量の加減が難しいと思われるが、逆にその濃さが好きな人には、ゆで卵の最大のお供になり得るポテンシャルを十二分に秘めている。

 ケチャップというのもなかなか見逃せない存在だ。こちらもゆで卵ではあまり聞かないが、目玉焼きにかける存在としては、比較的スタンダードなだけに期待も高まる。どのような味になるのだろうか、予想もつかない。いまだかつて、私が経験したことのない謎の存在が今、大きく立ちはだかる。

 さて、なぜこんなことをつらつらと書いているかと言うと、今、手元にはコンビニエンスストアで買ってきた一つのゆで卵があり、幸い、家に上記5つの調味料が存在しているのだ。この一つのゆで卵を最大限に楽しむにはどういう選択をすればいいだろうか、私はそれに迷っているところなのだ。
 何も一種類に限定することはない。やろうと思えば1口で頬張ることもできるが、もちろん5口に分けて食べることも可能なわけで、そうすれば上記5種を一度に味わうことも可能だ。だが、仮にそうするとしても、今度は順番が重要になってくる。どれも個性的な味をしている中、前後の味に影響されてインパクトが薄れるものが出てきてはならない。慎重に慎重を重ね、順番を決定していく。

 長い思考時間を経て、どうにか順番はまとまった。最初、確実に仕事をするマヨネーズに立ってもらい、次にとんかつソースにご登場を願う。3番目に変わり種のケチャップにご出馬を願って、4番手をしょうゆにきっちり抑えてもらう。トリを務めるのはやはり大御所、塩だろう。

順番も決まり、ついに味わう時がやってきた。ていねいに卵の殻をむき、マヨネーズを適量かける。そしておもむろにかぶりつくと、口内に広がる予想外の味。

「!」

驚いてパッケージを見直すと、そこには「味玉」の二文字がしっかりと印字されていた。そっか、どおりでこの卵、褐色だなと思ったよ。

……ドレッシングやゆずこしょう、七味など、おすすめがありましたら教えてください。今度はちゃんとゆで卵を買ってきますんで。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅳ 作家名:六色塔