火曜日の幻想譚 Ⅳ
399.うそつき
中学生のときに転校してきた子は、ものすごいうそつきだった。
その子は何にでもうそをつく。道を聞かれても、ゲームを持っているか聞かれても、休み時間に何をやっていたかを聞いてみても、いっつも適当なことばかり言っていた。
まあ、ここまでならちょっと変わったやつとして、わりとみんなの学校にもいるかもしれない。でも、この子は格が違った。何が違うって、先生にもためらわずうそをついていくのだ。
授業中、指されてもとんちんかんな答えをする。ふざけてるんですかと問われてもその姿勢は崩さない。先生が鬼の形相で怒っているときですら、彼は本当のことを言ったことがないのだ。
これはめんどくさいやつだ。そう思ったが、実際はそうではなかった。常にうそをつくということは、質問の仕方次第で本心が分かってしまう。とくにYES/NOで答えられる質問は、正直に答えているようなものだ。
僕たちがこれに気付くと、彼との距離はグッと縮まった。今日、遊びに行っていいか聞いて首を横に振れば、彼のうちに遊びに行けたし、彼が僕らのクラスの川井さんを好きなことも判明した。僕たちは未知のものを怖がる。こういったことが分かってしまえば、彼が僕らの仲間に加わるのには、そう長い時間はかからなかった。
ある日のこと。クラス内でテストが行われた。そのテストは、出題者が何を考えたのか、とても難しく、クラスで1番、頭のいい小田くんでも70点を取るのが精一杯という代物だった。
当然のごとく僕らは、答案の見せあいっこをして、点数のひどさを笑い合う。さあ、今度はうそつきの彼の番だ、と思いのぞき込むと、そこには赤い0の文字。
おまえ、テストでもうそをついたのかとからかうと、彼は首をぶんぶん横にふる。これじゃあ、俺ら、どこの高校にも行けねえななんて言いながら、その時間は幕を閉じた。
その後、彼は再び引っ越していってしまったので、今はもう連絡を取ることができない。けれど、よく考えたら、彼の答案を見たあとにからかった際、首を横に振っていた。ということは、あのテストでもうそをついたということになるじゃないか。
実は、彼はあのテストで100点を取れたんじゃないだろうか。大学生になれる年になった今、彼が本当は優秀だったのなら、そろそろその名前が聞こえてくるはず。あのうそつきが実は世紀の大天才だったなんて面白過ぎる。高校を何とか出て、実家の工場を継いだ僕は、彼の名を再び聞く瞬間を旋盤を回し続けながら楽しみにしているんだ。