火曜日の幻想譚 Ⅳ
473.のんだくれの野望
こういうご時世ということもあって、家でのむことが多くなり、料理というほどではないけれども、出来合いの物に少し手を加えておつまみにするようなことが多くなった。
キムチと納豆を混ぜて炒めてみたり、きゅうりにザーサイやささ身を和えてみたり。基本的にそんなものしか作れないが、それでも宅飲みライフの幅が広がったのでとても満足している。
また、意外と気が付かなかったが、外でのむよりもはるかに安くつくのもありがたい。のんでる最中に上記の調理をしたり、終わってから食器を洗うのが面倒っちゃ面倒だが、まあ、外食して家へ帰るのも同じくらい面倒だと考えれば割り切れる。
先日、そんなのんだくれの私も、とうとう人の親になった。元気な女の子を出産した妻が娘を連れ、わが家に帰ってきてくれたのだ。
だが、妻は今こそ育児休暇を取っているが、いずれは職場に復帰をする予定だ。当然、家事や育児は夫婦で分担することになる。
ということは、今までおつまみを作ってきた成果を見せるチャンスというわけだ。掃除や洗濯などは今までも分担してやってきたが、他人に料理を振る舞うのは、実は、これが初めてなのだ。
だが、今から手ぐすねを引いている私を見て、妻は少々複雑な表情をしている。のんべえの私に食事を作らせたら、娘が、味の濃いものばかり好きになってしまうのではないか、と危惧しているようなのだ。
でも、それでもいいじゃないか。家族みんなでおつまみを食べれば、これほど幸せなことはない。お酒がのめる年齢になったら、パパが得意としている厚揚げチーズ焼きを3人でつつきながら、今日のできごとを語り合おうじゃないか。
それを実現するには、今から英才教育をしておくのが一番というわけだ。
ってことは、まずはイカ刺し辺りから……、と思ったが、小さい子はかみ切るのは無理かもしれない。じゃあ、白身魚あたりが妥当だろうか。どうにも思いだけが先走ってしまう。
そんな私を見て、ますます苦い顔をする妻。のめばわりといける口なのに、こういうときはつれないんだなあ。
まあ、どちらにしても血圧とかには注意しないといけないんだけどね。