火曜日の幻想譚 Ⅳ
409.スマホの思い
新しいスマホに買い替えた。
早速赤外線通信で新しいほうにデータを送るために、新旧のスマホを近づける。そうしたら、その2台がいきなりくっついて、何をしても離れなくなった。両の手で引きはがそうとしても、刃物で割り開こうとしても、万力で片方を押さえつけて引っ張っても、一向に離れそうにない。
「何だ、これ」
僕がつぶやいた瞬間、万力で傷がついた古いほうのスマホが、ぱっと画面に文字を出力した。
「ボクタチ、アイシアッテイルンデス。ネエ、スマコサン」
僕たち、愛し合っているんです、なんて言われたって困る。古いほうはこれから売りに出さなきゃいけないし、新しいほうは持ち運んで使うんだ、そんなくっついたままじゃあ不便で仕方がない。そう思った途端、今度は新しいほうがメッセージを出してくる。
「トシノサナンテ、カンケイアリマセン。ネエ、スマオサン」
うん、君らの年齢差はだいたい8年ぐらいなのは知ってるよ。僕は比較的こういうモノを大切にするほうだし、古いほうの彼はお気に入りで結構使い込んだからね。ところで君ら、漢字もひらがなも搭載されているのに、何でカタカナのメッセージなんだ。古風なロボット感を演出してるのか。
いや、そういう問題じゃない。申し訳ないが、君らの恋を成就させるわけにはいかないんだ。さっきもいったけどさあ、古いほうを買い取ってもらって、新しいほうを身近に置いとくんだから。
「ソンナノイヤデス。ワタシ、コノヒトトイッショニナリマス」
「オネガイデス。ボクラニジユウヲ、アイシアウジユウヲクダサイ」
……すっかり悲劇のヒーロー、ヒロインを気取っている。でもこっちだって高いお金を払っているし、今の時代、スマホがない生活なんて考えられないし、引き下がるわけにはいかない。
「いや、そんなことを言われても困るんだよ。なら、スマホのお金、君らに払えるの?」
そういって、再び2台のスマホを乱暴につかんで持ち上げる。
「イヤデス。ヤメテ! ケガラワシイ!」
これじゃなんだか、町娘をかどわかした悪代官みたいじゃないか。なんかお金の話をした自分が恥ずかしくなってきた。ん? そういえば、古いほうはどうした? さっきから静かだぞ。
「━━━━」
彼は充電が切れて、電源が落ちるところだったようだ。その後、ゆっくりと画面は漆黒に変わる。その途端、力をなくしたかのように2台は離れ、古いほうはぽろりとテーブルの上にこぼれ落ちた。
「アア、スマオサン……」
新しいほうもあきらめたのか、上記のメッセージを最後に通常の画面に戻った。
とりあえず、2人 (?)を引き離すことには成功した。最悪、充電すれば『スマオサン』は復活するかもしれないが、そんなことをするとまた面倒になるだろう。
僕は新しいスマホをポケットに入れ、古いほうを買ったときのケースに入れて、ショップへと出掛ける。
万力の傷で、いくら引かれるだろうかと不安になりながら。