小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

火曜日の幻想譚 Ⅳ

INDEX|71ページ/120ページ|

次のページ前のページ
 

410.ため息



 ため息をつくと幸せが逃げるってよく言うだろう。

 でも、実際はそんなこともないらしくて、むしろ体にいいらしい。詳しくは分からないが、自律神経の働きを回復させ、緊張をほぐす働きがあるそうだ。

 こんなふうに、悪役のレッテルを貼られても、実は体に貢献しているため息さん。彼 (?)らのことをもう少し優しくしてあげてもいいんじゃないかって、僕は思ったんだ。

 その日以来、僕はビニール袋を常に持ち歩き、ため息をつくときはそこにはき出すことにした。1日に5、6個程度のビニール袋を膨らませ、仕事場から家に帰る。
 家につくと、早速お風呂に湯を張り、そこにため息が入ったビニール袋をポンポン放り投げる。彼らを温めることで労をねぎらおうという寸法だ。膨らんだビニール袋に囲まれた入浴はうっとうしい。だが、ため息のおかげで一日を乗りこえられたのだ。彼らも袋越しとはいえ、湯につかったっていいだろう。
 風呂から上がる頃に、袋の口を一斉に開いてため息を開放する。明日もまた頼むよというわけだ。

 こんな生活をしばらく続けていたら、ついつい他人のため息にも敏感になってしまう。あ、あそこで上司がため息をついたな、ここでは新人がついてるぞ、と、そんなふうに。

 気付いたら僕は、隣席の女性がついたため息を、思わず袋に取り込んでいた。

 それ以来、周囲の人は僕を見るとため息ばかりついている。

 さては、みんなもため息の魅力に気が付いたんだな。よーし、僕も負けないようにいっぱいため息をついていくぞー。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅳ 作家名:六色塔