火曜日の幻想譚 Ⅳ
412.三面鏡
母がドレッサーの前に座っている。観音開きの立派な代物だ。
母はゆっくりと目の前の鏡を開き、三面鏡に自身を映し出す。だが、3枚の鏡に映る3人の母はどれも違った顔をしていた。
向かって左は若々しい、というより産まれたばかりの幼児の顔。中央は今の顔。そして右は……首に縄をかけられ、苦しみもだえている顔。
祖母も、祖父も、父も、おばも、皆、この三面鏡をのぞき込むとこんなふうになる。左は幼い顔。中央は今の顔。右は、あるものは安らかな死に顔、そして、あるものは無表情……。
三つの顔を類推すれば、左から、生後の顔。今の顔。そして死ぬときの顔だろう。なぜ、この三面鏡にそんな顔が映るのかは分からないが、鏡面の顔はそれらを示していると考えて間違いない。
そして、三面鏡の通りだとすると、大好きな母は無残にもくびれ死ぬことになる。そんな思いに苛まれ、おびえる娘。
自身は三面とも同じ顔が映ることに何の疑問を抱かずに。