火曜日の幻想譚 Ⅳ
413.もぐらたたき
妻が買い物をしてくる間、幼稚園児の娘、かのんと一緒に休憩所にいたときのこと。
「パパー、つまらないよー。何かしようよう」
活発な娘は、しりとりにも飽きてしまったようで、不満を口にしながら周囲をキョロキョロと見渡す。しばらく娘は何か面白そうなものを探していたようだが、やがて、近くのゲームコーナーに目をやると、急に目を輝かせて私に訴えだした。
「パパ、あそこにもぐらたたきがあるよ。やろうやろう」
もぐらたたき。幼少期に私もやったことがある。いくつかの穴から飛び出してくるモグラを、数多くたたいたほうが勝ちというゲームだ。いまだにこんな古臭いゲームがあるのかと思ったが、子どもが喜ぶものというのは、年月を経てもそれほど変わらないのだろう。
「ようし、じゃあ、1回だけな」
私たちはゲームの前まで歩み寄る。娘は早速ハンマーを持って待機した。私は、コイン投入口にお金を放り込み、娘のハンマーさばきを見ていることにした。
娘はなかなか順調にモグラをたたき続け、そのスコアは結構なものになろうとしていた。そして、そろそろ本日のハイスコアに到達するんじゃないかと思った瞬間、ゲームの台に奇妙なことが起こった。
穴から飛び出してくるもぐら、その一つが、小さい男の子の顔なのである。
「?!」
しかし、私はその男の子の顔に見覚えがあった。幼稚園で一番かのんと仲がいいかけるくんの顔だ。しかし、私がそれに気付いたのとほぼ同時に、かのんはかけるくんの顔をハンマーでたたきのめしてしまった。鼻を真っ赤にして沈んでいくかけるくん。それを見ながら、かのんは言い放つ。
「かけるくんよりパパのほうが好きだもん」
愛娘はそれ以降も、ものすごい勢いでモグラをたたいていく。
やがてゲームは終わる。順当にハイスコアを取ったかのんは、
「ああ、楽しかった」
といい、にこにこしながら持っていたハンマーを所定の位置に戻した。
かけるくんよりお父さんを選んでくれてうれしい反面、私はどこか娘に空恐ろしいものを感じながら、荷物を抱えてやってくる妻を迎えた。