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火曜日の幻想譚 Ⅳ

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414.フェアリー



 深夜。いざ、寝ようと思ったときのこと。

 さっき電源を落としたパソコンの周囲に、何か光るものがふらふらとうごめいている。ほたるかと思い起き上がろうと思ったが睡魔には勝てず、そのまま光の正体を放ったらかして眠りについてしまった。

 その日以来、マウスの動きがおかしい。どうも引っかかる感じがする。

 調子が悪いのかなと思って分解してみても、特に異常はない。パソコンが乗っ取られているかもと思い、詳しい友人に本体のほうも見てもらったが、問題はないとのこと。

「うーん。どうしたんだろうなあ」

 このマウスはそれほど高いものではないが、ちょっと変更できない事情があった。私は、FPSというジャンルのゲームにどっぷりハマっているのだが、それをプレイするには、このマウスがちょうどいいのだ。このマウスのおかげで、私は手ごわい敵を何体も撃破してきた実績がある。これを変えてしまうと、慣れるまでに時間がかかるし、慣れても今のような調子を取り戻せるとは限らないのだ。世の中には、筆を選ばない弘法のように、マウスを選ばないすご腕もいるらしいが、少なくとも私はマウスを選ぶ性質なのだ。仕方なく、中古パソコンパーツのサイトやフリマアプリで同型のマウスを探そうとすると、パソコンを見てくれた友人がポツリと言った。

「面白いから、いっそ、このまま使ってみたら」

 なぜだろうか。私は友人のこの「面白い」という言葉で急にその気になり、この奇妙な動きのマウスを使い続けることに決めたのだった。

 翌日。私はマウスを握りながら、カーソルの動きを確かめていた。どういうふうに動くのか、どんなふうにすればいいのかを、感覚にたたき込むために。

 すると、何にもしなければ、思ったところにカーソルが移動してくれる。サイトを見ていると、次、クリックしたい場所にスッと最速で動く。テキストを書いていても、いつの間にかいてほしいところにいてくれる。それはまるで、少し先の未来を見ているかのように。

 そうか。今まで自分で動こうとしていたから、思うように動かなかったのだ。動かしさえしなければ、最速で目的の場所に移動してくれるというわけだ。

 これはと思い、私は早速ゲームを起動する。ゲーム内でもものすごい速さで敵に照準が合う。今までよりもはるかに速い。あまりの速さに驚くとともに、私は数日前、寝る前に見た光の正体が分かった気がした。

「あの光、実は妖精(フェアリー)で、マウスの中に入り込んでいるんじゃないか」

その日の夜もゲームに参戦した私は、このフェアリーのサポートを得て、圧倒的な速さ、圧倒的な強さで連戦連勝した。あまりのワンサイドっぷりに、ちょっとしらけ気味の友人たち。こりゃ、今後はなんか手を講じなければと思いながら、上機嫌でゲームから退出する。

 ああ、楽しかった。勝利ってなんて気持ちがいいんだ。そんなことを考えながら、とある欲望を催してきた私は、自室であることをいいことにするするとズボンを下ろした。すると、マウスはススス……と動き、私のお気に入りのサイトを開いてお気に入りの動画を、表示させていた。

 なんか急に冷めた、というより怖くなってきた私は、スマホから代えのマウスを急いで注文した。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅳ 作家名:六色塔