火曜日の幻想譚 Ⅳ
416.深夜徘徊の理由
深夜に外出するのが好きだ。
別に変なことをする気はない。ただ、普段とはちょっと違う街の景色がもの珍しいというだけだ。人や車が行き交う昼間とは違い、いるのはせいぜいガラの悪い若い子ぐらい、車もタクシーぐらいしか通っていない、そんな街の夜の顔というのをのぞき見るのがたまらない。
今夜も適当に飲み物を買うという用事を作って、深夜に外に出る。しんと冷えた空気もまた風情があっていい。そんなふうに思い、コンビニエンスストアへ行こうと思っていたら、家のすぐ近くに自動販売機ができているのを見かけた。
「あー、ここにできちゃったのか」
僕はがっかりしたような、うれしいような複雑な表情になってしまう。ここに自動販売機があるとたしかに便利だ。しかし便利な半面、深夜の外出に差し障りが出てしまう。ここで用が済んでしまうと、深夜の空気を存分に楽しめなくなってしまうのだ。
思えば、僕はただ深夜を楽しんでいただけではなかった。行き詰まったとき、アイデアややる気が出ないとき、外の空気を吸うことで幾度も危機を乗りこえてきたじゃないか。家で仕事をするというのは気楽な反面、定期的にそういう頭の入れ替えもする必要があるもんだ。
取りあえず、今はこの自動販売機のお世話になろう、そう思い、小銭を入れて飲み物を買う。そして、出てきた缶コーヒーをつかみ取りながら、これからは違う外出の理由をでっち上げて、コンビニエンスストアとかに行くようにしないとな、と僕は思った。