火曜日の幻想譚 Ⅳ
418.臭い
おじいちゃんの介護をしていて、そのときに奇妙なことに気が付いた。
おじいちゃんは、80を越した辺りから少し物覚えが悪くなり始め、88になったつい先日、息を引き取った。そのため、都合8年の間、孫の私はおじいちゃんの面倒を見てきたことになるわけだが、そのときの話だ。
ある日、おじいちゃんが、便を失禁してしまったことがあった。幸い、お風呂場の脱衣所だったので被害はそれほどでもなかったが、その時のおじいちゃんはちょっと不思議だった。
脱衣所がきれいになるまで、かなりはっきりと意識が戻っていたのだ。私たちは驚いたが、ともかくまずは脱衣所をきれいにしなければならない。そう思ってきれいにしたら、その瞬間、おじいちゃんはまた、口をぽかんと開けた、力の抜けた顔に戻ってしまった。
その頃のおじいちゃんはもうかなり病が進行していて、あんなにはっきりと意識があるなんてまずありえなかった。そのときは何かの偶然かと思ったのだが、その後、もう一度だけおじいちゃんが正気に戻る瞬間があった。
それがなんと、くさやが食卓にのぼっていたときだった。
便とくさや。排せつ物と食べ物の違いこそあれど、どちらも匂い、いや臭いが強烈なものだ。もしかしたら、おじいちゃんは強い臭いがする状況だと意識が戻る体質だったのかもしれない。
だからといって、おじいちゃんを臭いのする場所に居させるようなことはできなかった。もう少し時間をかければ、おじいちゃんの意識が戻り、なおかつ、私たちも受け入れられる匂いのものが見つかったかもしれない。そう思うと、かえすがえすも残念でならない。