火曜日の幻想譚 Ⅳ
424.上司
毎晩、夢で嫌いな上司を殺している。
本当に大嫌いだ。それは自分でも、重々自覚している。ビジネスという、自分を押さえる必要がある場面。そのような場面だと分かっていても、なお、平静ではいられないほど憎んでいる。
おそらく、その殺意が夢の中で無意識に漏れ出してきているのだろう。その上司は、毎晩毎晩、僕の夢の中で、惨たらしく死んでいくのだ。
確か、最初は刺殺だった。上司に書類のダメ出しをされている最中、いきなりぶっ刺した。床下でのたうち回る上司が、ピクリとも動かなくなったところで、目が覚めた。
その夜以降、後頭部を鈍器で殴ったり、火災の中に置いてきぼりにしたり、ホームから突き落としたりということを、夢の中で毎晩のようにやっている。
不思議なもので、こういう日々を送っていると、現実にやっちゃっても大丈夫じゃないかと思うようになってくる。いや、やったら普通に人生を棒に振るのだが、夢の中とはいえ毎晩殺していると、夢と現実の境がぼやけて、一回くらい刺しちゃってもいいんじゃないか、という気持ちがむくむくと頭をもたげてきてしまう。いや、駄目なんだけれども。
これはまずい。うっかりやってしまってはいけないと思い、上司の前では気を引き締めるように心をあらためる。しばらくそうしていると、気のせいか、上司もそれほど口うるさく言わなくなってきた。
明らかに以前より優しい口調の上司にホッとしながら、こちらもにこやかに対応していく。こんな感じなら、この上司ともうまくやっていけるに違いない。最近、そんなふうに思えるようになってきた。
まあ、そんな上司を殺す夢は、あいかわらず今も見ているけどね。