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火曜日の幻想譚 Ⅳ

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427.間の悪い人



 前に勤めていた会社に、広田さんという人がいた。

 年は恐らく40代くらい。中肉中背、少々額は広いが顔立ちは整っていた。
 仕事もできる人だった。誰しもが、彼が居なかったら現場の仕事は回らないだろうと言ったはずだ。
 人当たりもすごく良かった。バイトの若い子、掃除のおばちゃん、クレームをつけに来たご老体、皆に笑顔で接していた。

 そんな一見して完璧に見える広田さんだが、致命的な欠点が一つあった。なんというか、ものすごく間が悪いのだ。例えば、何か嫌なことがあってとても不機嫌な上司。その上司に、都合の悪い報告をしなくてはならないなんて状況。そんなとき、報告することになるのはなぜか決まって広田さんだ。皆でやる作業を分担して割り振るなんて場合。そんな時も、一番面倒な所を受け持つことになるのは広田さんだ (仕事はできるので、これはあまり問題ないが)。他にも、先述のようなクレーム目的の来客の際も、必ず入り口付近を歩いていて呼び止められるのが広田さんなのである。

 言うなれば広田さんは、とにかく間が悪くて貧乏くじを引く人なのである。

 上司も、広田さんのこの間の悪さには気づいていたようだ。聞いたところ、人事会議のとき社長に
「広田は優秀ですが、ちょっと間の悪いところがありますので」
と、毎度言っているらしい。実際、広田さんは管理職にはなれず現場でその力を発揮していた。


 そんなある日、大事件が起きた。広田さん自身も、管理職になれないことを気にしていたのだろう、突然、会社を辞めて独立すると言い出したのである。当然、社内は騒然となった。前述の通り、広田さんがいなければ現場は厳しい。経営陣も管理職も社員もバイトも、可能な限り広田さんを引き留めようとした。管理職への昇進、給与のアップ、待遇の改善、理をとく、情に訴えかける……。
 だが、広田さんは全く聞く耳を持たなかった。そして、新しい取引先を開拓し事業を拡大するという、会社にとって一番間の悪い時期に、退職をしてしまったのである。

 残された私たちは、懸命に働いた。経営陣も、新たな人員を十分に確保してくれた。しかし、広田さんのあいた穴はいかんともしがたかった。その上、大不況に陥ったこともあって、やむなく会社はリストラを行うこととなった。
 一方、新しく構えた広田さんの事務所も、間の悪いことに上記の大不況の影響をもろに受け、数年で事業をたたむことになってしまった。
 それ以降、広田さんの行方はわからない。


 私はリストラの際、前の会社を退職して今の会社に拾われた。この会社で私は出世して管理職に昇進したが、実は少しおびえている。
 広田さんや彼のような人物がやってきて、部下になってしまったらどうすればいいのだろう。その社員を、はたして昇進させずにいて良いものだろうか。

 そんな考えに悩まされている上、仕事が山積みな私の元に中途採用の面接志望者がやってきた。多忙で間の悪い時だが、面接をしてこなければ……。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅳ 作家名:六色塔