火曜日の幻想譚 Ⅳ
428.キーホルダー
大好きな美和ちゃんが、九州に旅行に行ってきたようです。
彼女はお土産ということで、宿泊先のご当地キャラのキーホルダーを僕にくれました。影で彼女をそっと見てることしかできない僕にも、こんなに優しくしてくれるなんて、きっと彼女は天使なんだと思います。
お父さんもお母さんも働いていて、家のカギを持ち歩いている僕は、早速キーホルダーを家のカギにくっつけます。カチャカチャと接続部の金属音が、心地よく鳴り響いてとてもいい感じです。
「美和ちゃんがくれたキーホルダー……」
ですがそれ以上に僕は、好意を抱いている美和ちゃんが僕にお土産をくれた、そのことでしばらく頭がぽーっとしていました。
それから数日後のことです。
そんなに大切にしていたキーホルダーと鍵を、どこかになくしてしまいました。
「あれ、どこだ。どこにもない……」
幸いお母さんが早く帰ってきたので、僕は家に入ることができました。でも鍵が誰かの手に渡った、なんてことになると大変です。
「落ち着いて思い出して。どこまであったのか覚えてる?」
お母さんも、心配そうに言葉をかけてくれます。
「えーっと、確か体育の時間の前はあったんだけど……あっ」
僕は心当たりを思い出し、洗濯物かごにそのまま入れた体操着ぶくろを開けて逆さにします。するとカチャンという音を立てて、カギが床に落ちてきたのです。恐らく着替えた拍子に一緒に脱げてしまったのでしょう。
「あった! 美和ちゃんのキーホルダー!」
僕は思わず、大声で叫びました。
その日の夕食は散々でした。
「この子ったら、見つけたときなんて言ったと思う? カギじゃなくて美和ちゃんのキーホルダーを見つけたって言うのよ。まるでカギのほうが、キーホルダーのホルダーのほうじゃない。思わず笑っちゃったわよ」
「ほほう、一翔(かずと)。おまえ、美和ちゃんって子が好きなのか。同じクラスの子か?」
「……うん」
「おまえは内気だから積極的にいかないと、誰かに取られちゃうぞ。ハッハッハ」
カギについて言われ、美和ちゃんのことについても言われ、ご飯を食べ終わる頃には恥ずかしさでもうすっかりくたびれてしまいました。
翌日。
僕は美和ちゃんと話す機会があったので、どきどきしながらこの話を美和ちゃんにしてみました。すると美和ちゃんは、
「そんなことがあったんだ。ありがとう。今度また、どこか行ったとき、あげるから、楽しみにしててね」
と言ってくれたのです。
やっぱり美和ちゃんは天使です。もうあのキーホルダーは絶対になくしたくありません。
僕は話の続きをします。そんなことがあったので、昨晩、カギからキーホルダーを外して大切にしまい込み、もう絶対に取り出さないと心に誓ったことを話しました。
しかし、話し終えたら突然、美和ちゃんがよそよそしくなってしまいました。どうも僕がキーホルダーを付けてくれないので、機嫌を損ねてしまったようです。
女心って難しい。そう思いながら僕は、再びキーホルダーを付けることに決めたのでした。