火曜日の幻想譚 Ⅳ
430.主張
目が覚めたら、何やら騒々しい。
しかし、周囲を見回してみても、いつもの汚い部屋があるだけだ。何が起きたんだと思い、顔に手をやるとどうも感触が違う。不安に思い、洗面所へ走って鏡をのぞき込む。
「?!」
なんと、僕のまん丸い顔の7割が水、残りは陸地になっている。チャームポイントである僕の丸顔が、そのまんま地球になっているのだ。
「なんで?」
困惑する僕。しかしそれをよそに、鳥や昆虫はうるさく羽ばたき、動物たちは地表で足を踏み鳴らす。その中で、ひときわ大きな声で主張をしている存在がいた。他ならぬ人間である。
彼らはとにかく自分の意見を、他人のそれよりも大きな声できゃんきゃんと喚き立てていた。特に自分と意見の合わないものへの罵倒は凄まじく、それらの言葉はメンタルの弱い僕にグサグサと突き刺さる。
「お願いだから、もう少し静かに」
僕は耳を抑えて絶叫する。そのせいで大地という名の僕の肌は震え、地球に大規模な地震が発生する。
「ほら、地球が怒ってる。もっと地球に優しくしなくちゃ」
僕の地震のせいで、うるさい人間たちの一部である、環境保護派の主張はさらに激化する。顔がほてれば、温暖化派の人が騒ぎ、汗が流れれば、洪水派の人々がほれ見たことかと、自分の正当性を主張する。
みんながみんな、勝手なことを言う。その上、正反対のことを言い出すものも出てくる始末。僕は誰にも何にも言われたくない。ただそれだけなのに。
地球に一番優しいのは、とりあえずみんながいったん黙ることなんじゃないのかな。そう言おうかと思ったけど、これだって一つの主張に違いない。恐らく、たくさんの主張の一つとしてかき消えてしまうだろう。
もうどうしようもない。仕方なく僕は耳せんをし、布団に潜って二度寝を決め込んだ。
人間は相変わらず何かを喚いていたが、耳と目をふさいだ僕には聞こえる由もなかった。