火曜日の幻想譚 Ⅳ
476.家充
台風がやってきた。
窓に風雨が打ちつけられ、その度にガタガタと音を立てる。テレビが各地の状況や、電車の運休情報を忙しなく伝えている。
今日は休みだし、家には食べ物も飲み物もある。ということは、僕は今日、外出する必要がない。もともとインドアタイプな人間である僕は、こういう時、思わずほくそ笑んでしまう。もちろん、台風の被害に遭われている方には、申し訳ないと思っている。けれど、やっぱりにやにやが止まらない。外に出なくてもいい理由が、こんなに胸を張って得られることなんて、めったにないからだ。
とかく世の中は、外に出るべきという風潮だ。さすがにこの台風で外を出歩くつわものはいないだろうけど、流行病のワクチンも結構な回数、打てる機会が回ってきたせいだろうか、世間は、人と会って話をしたり、会合に参加して勉強したり、素晴らしい景色をながめて心を洗ったりしなければいけないらしい。さらには読書や音楽鑑賞すらも、お気に入りのカフェまで行ってやれという。自分でいれたお茶をすすりながら、家で読んだり聞いたりなんてことはもってのほかのようだ。
まあ、そういう風潮も否定しない。けど、月に1回、安くもない家賃を払って、もしくは頭金を払ってローンを組んで、ようやく得られた居場所だろう。もうちょっと、そこに居てやっても良いんじゃないかなあ。
旅行から帰ってきて「やっぱりうちが一番」なんて言う人もいるけどさ、そんなのは最初から僕らは分かっているんだよ。帰るところがあるから、どこかに行けるのさ。
相変わらずの風雨の中、午後は安穏と昼寝でもしようかなと思いつつ、冷やご飯と冷蔵庫の残り物でこしらえた昼食のチャーハンをかっこんだ。