火曜日の幻想譚 Ⅳ
434.虚数の現実
数学には虚数という概念がある。
確か学校で、「二乗したら負の値を持つ数」と教えてもらった気がするが、遠い昔の話なので覚えていない。だがとにかく、この虚数という概念がないと、いろいろと説明できない数学理論があるということは覚えている。
別に小難しい数学の話をおっぱじめるつもりはない。私も数学はからっきし駄目だ。では何が言いたいかと言うと、同じような存在が日常生活にもいるよねっていうことだ。われわれ人間と同じライン上にいない存在。幽霊とか妖怪なんて名前で呼ばれているかたがたのことだ。
彼らは理論の上では、存在しないことになっている。少なくとも、信じない人がいることは確かだ。だが、彼らの存在によって、説明できないものにいろいろ説明がついてしまう。それがある種の戒めになったり、慰めになったりするぐらいだ。具体的に言えば、彼らのおかげで、死者をけなす人でなしが悲惨な目にあったり、あの世の大切な家族が、窮地を救ってくれたりする。彼らのような怪異は、現代社会における虚数軸に生きるものなのだ。
だが、悲しいかな。この世は数学よりは複雑に、そして不公平にできている。数学の世界では正しく運用されているであろう虚数の世界を、現実では霊感商法やうさんくさいスピリチュアル信仰として悪用するものが後を絶たないのは嘆くべき状況だ。これからさらに社会が進んでいけば、このような者たちが根絶されるのだろうか、それはさすがに分からない。
まあ、とにかく言えることは、あの厳密な数学の世界ですら、このような概念を用いているのだ。やはり現実世界でも、われわれ人間とは違う軸で生きる者、という概念はあってもいいんじゃないかなとは思う。
ただ、概念はあってもいいからって、あんまり身近にいておどかされても困る。丑三つ刻にこれを書き、これからトイレに行こうとしている私は、切にそう思うのだ。