火曜日の幻想譚 Ⅳ
435.切腹師
僕ん家の男子は、代々切腹をなりわいとしている。
僕のうちでは生まれたら、男子はみんな、家で切腹に必要な教育を受けさせられる。そして18歳、高校を出るまでにはみんな結婚してしまうんだ。で、20までに子どもをもうける。そして、20になったら村の偉い人にあいさつをして、そのままおなかに刃を突き立てて死んでいくというわけだ。
僕も年が明けたら20になる。既に跡継ぎの子も妻のおなかにいる。元気でかわいい男の子だそうだ。きっとこの子も20年後、立派に腹を切ってお役目をはたせると思う。
たまに僕らのことをかわいそうだという人がいる。正直、僕にはあまりよく分からないけれど。だって、20年でやることはやったんだ。愛する妻は得られたし、子孫だって残せたし、自分のすべき仕事も立派にするわけだし、死ぬために必要な準備だって万端だ。これ以上何を望む必要があるというのだろう? 僕は逆に聞きたいよ。何もなさないで、だらだらと人生を生きることって、かわいそうじゃないのかってね。
人生50年、なんて唄いながら踊った戦国武将も昔はいたらしいけど、天下統一にはそれぐらいの時間がかかるんだろうね。でも、普通に人として生を全うするのならば、20年もあればどうにかなるんじゃないのかなって、僕は思うんだよ。