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火曜日の幻想譚 Ⅳ

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441.K氏の話



 先日亡くなった俳優、K氏に関する逸話を話そうか。

 優れた俳優だったK氏にも駆け出しの時代はあったそうで、俳優としての仕事が全然もらえない当時、どうにかこうにかありついた仕事が、とあるお色気クイズ番組の司会という仕事だったんだ。
 TVのお色気番組と言っても、深夜に放送されるのでその内容はかなりハードだった。クイズで間違えた女性は一枚ずつ服を脱がされ、最終的には下着まで脱がされてしまう。今の人なら顔をしかめてしまう内容だが、当時はこんなのがまかり通っていたんだね。
 まあもっとも、脱がされてしまう女性というのはストリッパーの方などで、いわゆる予定調和ってやつだったらしい。まあ、そうだよね。大抵の女性はいくら大金を積まれても、こんなことに参加したがるわけはないんだから。
 兎にも角にもK氏は、そのクイズ番組の司会という仕事を一時期やっていたそうだ。


 ある日、その番組の収録中にトラブルが起きたんだ。なんでも、その日脱ぐはずだった女性が、急に脱ぎたくないと言い出したらしい。スタッフも仕事なんだからと強く言ったり、反対になだめたりしてみたそうだが、どうにも埒が明かない。時間が押して皆がイライラする中で、K氏は彼女に言ったんだ。

「周りのことは気にしないで、ゆっくり考えなよ。時間はあるし、だめなら別の人で後日撮り直ししても俺はいいからさ」

K氏のこの言葉の数時間後、彼女は思い直してその裸身をカメラの前にさらし、無事収録を終えたそうだ。


 それから長い月日が経って、K氏は俳優として有名になった。そんなK氏の元に、このときの女性が訪ねてきたんだ。

「あのときはお世話になりました」

そう言って深々と頭を下げる彼女を丁寧に出迎え、ひとしきり談笑した後、K氏は彼女に聞いたんだ。

「今は元気にやっているのかい」

その答えに、彼女は少し沈んだ顔をして答えたんだ。

「あなたのおかげで、私は人気も出てストリップを辞めずに頑張ることができました。でも年をとって仕事もなくなってしまって、今はお金に困っているんです」

 これを聞いて、K氏は自分の責任を痛感したんだね。あのときあんなことを言わなければ、彼女は今頃、別の人生を歩んでいたかもしれない。そこでK氏は、少しお金を融通してあげようと考えたんだ。でも、君も知っている通りK氏は恐妻家で、自由になるお金はほとんどなかったんだね。

 困ったK氏はどうしたか。無謀にも、奥さんに全てを正直に話して、金をくれと頼んだんだ。

 なんで無謀かって? よく考えてみなよ、元ストリッパーの美人にお金を渡したいって奥さんに相談するんだぜ。どう考えたって関係があると思われるに決まってるだろう?

 ここまで言っておいて手のひらを返すみたいだけど、相談された奥さんも剛毅な人だった。

『これは浮気なんかじゃない。そもそも、うちの旦那にそんな度胸はない』

と、奥さんは一瞬で見抜いたらしい。だけど、夫は名の知れた俳優。変なうわさが立ったら困るということで、奥さん名義でその女性に生活費を融通してあげたんだそうだ。

 先日、K氏が亡くなられてから、未亡人とその女性は、なんと同居を始めた。話によると、お金を融通してもらう間にK氏以上に親しくなり、二人で老後を過ごすことに決めたんだってさ。


 何、K氏の話ってより、ストリッパーの人と奥さんがメインの話じゃないかって?

 まあそういうなよ。K氏は生前から主役を張るより、脇を固めるほうが得意だったんだしさ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅳ 作家名:六色塔