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火曜日の幻想譚 Ⅳ

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445.塔



 僕の住む街には、一本の塔が建っています。

 その塔は街の中央部にある大広場に建っており、天気のいい休日などには、多くの家族や恋人たちが足を運ぶ名所となっています。今日は、街のみんながこよなく愛しているこの塔の紹介をしようと思います。

 塔の入り口はどこか分かりません。鍵を持っている人が誰なのか、それを知っている人もいません。ごくまれに、開いているといううわさを聞いたことがありますが、誰も見たことはありません。
 塔の地上付近の様子は、ほぼ円柱の形をしていて茶色です。それだけを聞くと大木の幹のようですが、木のようにゴツゴツとした表皮ではなく、つるりとしたなめらかな手触りになっていて、小さい子が無心にペタペタ触ったりしているのをよく見掛けます。

 ところが、塔の高さが顔を見上げる程度になると、その様相は一変します。円柱状だった塔が、いきなり四角柱、それも横幅が非常に広く、塔の高さほどの横幅があるものに変わるのです。それはまるで、塔がいきなり手を広げたかのような感じです。しかも、それだけではありません。その四角柱、色が真っ赤なのです。
 なぜこんな形状、色をしているのか、これも、私たち街の人間は誰も知りません。ちなみに、この赤いやつのおかげで、洗濯物を干すとき日陰になってしまう家があり、現在、裁判沙汰になっていたりしていますが、塔の形を変えようという意見は、その人気ゆえに出てこないようです。

 その赤いやつより上には、再び円柱状の物体が天へと向かって延びています。しかし、入口付近のそれと違うのは、こちらの円柱は鮮やかな黄色だということと、細くて2本、建てられているということです。その2本の間には、かろうじて僕らが通り抜けられそうな (そんな高いところまで登ったことがないので、地上からの目測ですが)すき間が開いています。

 そして、頂上です。黄色い2本の円柱の上には、真っ青でやや上辺と下辺が長い四角すいがバランスよく乗っており、そこが頂上になっています。この真っ青な四角すいに、夕日がかかったときの美しさはまさに絶景の一言です。この街のホテルの上階でなら、見ることができると思いますので、訪れる時はチェックをしておいてください。

 ……でも、最近なんか不安なんです。この塔、街に住む僕がいうのもなんですけど、まるで子どもがおもちゃで作りそうな形じゃないですか。なんか近いうち、製作者のかんしゃくとか、お片付けとかでぶっ壊されてしまいそうな、そんな気がするんです。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅳ 作家名:六色塔