火曜日の幻想譚 Ⅳ
446.傘がほしい
家に傘がありません。
とても傘がほしいのです。ほしくてほしくてたまらないのです。
ならば買いに行けばいいじゃないかと人は言います。誰に相談してもそう言うのです。ですが、そうできない理由があるのです。
雨。実は傘がないと気付いた日から、連日連夜、雨が振り続けているのです。来る日も来る日も雨。梅雨でもないのに雨。いかんともし難く雨。
これでは、傘を買いに行くことができません。
要するに僕は、傘を買いに行くための傘がない状況なのです。
このままではらちが明きません。このままでは家の中の食べものを全部食べ尽くしてしまいます。そうなったら、傘がないことを理由に僕は死んでしまうのです。
そうなる前に手を打たなければ。僕はそう考えて、家にあるもので傘を作ることにしました。遠足で使うビニールシートを押し入れから引っ張り出し、菜箸などを用いて傘の骨組みを作っていきます。
「よし、できた」
傘として問題なく使えることを確認し、豪雨の中、近所に傘を買いに出かけようとします。
「あっ」
そのとき、ようやく気付いたのです。最後に外に出たときに、一足しかない靴の底が抜けてしまったことを。
「……今度は靴を買いに行くための靴を作らなきゃ」
なお、靴が完成した後、今度は服がないことに気付き、服を買うための服を作り始め、ようやく外に出ることができたのは3週間ほどたってからでした。