火曜日の幻想譚 Ⅳ
478.たくあんの下のまな板
まな板の上の鯉、なんて言葉がある。
絶体絶命の状態を指しているわけで、まあ、鯉にしてみればたしかに絶体絶命だろう。別にこの言葉を否定したいわけじゃない。だが、俺ら、まな板の立場ももう少し考えてほしいと思うんだ。
何、おまえらまな板は別に絶体絶命じゃないだろって? いや、実のところ、そうでもないんだよ。もうぎりぎりなんだって。
でも、実際におまえは、あの包丁の鋭い一撃をずっと受け止め続けてきたじゃないか?
確かにそうかもしれない。だが、受け止め続けてもうぼろぼろなんだよ。人間社会にもいるだろう、昨日まで気丈に振る舞っていたのに、翌日になったら急に参ってしまうやつが。俺らもそうなんだ。逝くときはSOSを出さずにあっさり逝くんだよ。
ああ、たくあんが乗せられた。これでもう終わりだ。じゃあな、最後に話を聞いてくれてうれしかったよ。
バキッ。