火曜日の幻想譚 Ⅳ
452.処刑人
試験監督のバイトをよくやっている。
開始の一時間ほど前にやって来て、簡単に説明を受ける。後はテスト中、見回るぐらい。何回もやってるもんだから、最初の説明もぶっちゃけいらない。でも、これでお金がもらえるんだから楽なもんだ。弁当が出ることがあるし、貧乏学生には本当にありがたい。というわけで結構な頻度で参加している。
試験中は空気が張り詰めているが、監督をする側のこちらは緊張感はそれほどでもない。このバイトが楽しいのは、試験をする側に立つことができるからだと思う。まあ、そちら側に立ったといっても、しょせん雇われの身。試験時間内の不正を暴くことにだけ注力し、最後に彼らの答案が無事にそろえば任務完了だ。その中身が満点だろうと白紙だろうともはやどうでもいい。もちろん、受験者の運命を変えてしまうかもしれないと重く考える人もいるかもしれないが、正直、俺はそこまで他人に興味なんかない。
ところで最近、こんな俺に『処刑人』というあだ名が付けられた。俺がカンニングを見つけるのがあまりにもうまく、不正をしようとしている受験者を何人も絶望にたたき落としているからだ。
さあ、受験者よ。今日もこの場で己の力を存分に出し切るがいい。だが、この雇われ試験官さまは、かつて、あの手、この手でカンニングをしていたダメ人間だ。この俺さまが見回っているうちは、不正を行うことは不可能だと思うんだな。
当時の悪行がこんな所で役に立つとは思わなかった。そんな思いを胸に秘め、今日も俺は教室内を歩いて受験者を見回り続けている。