小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

火曜日の幻想譚 Ⅳ

INDEX|25ページ/120ページ|

次のページ前のページ
 

456.断りの労力



 突然だが、皆さんは何かを断るということは得意だろうか。

 むちゃな仕事の依頼、行きたくもない飲み会、その他諸々の面倒な厄介事。そういった自分の人生にとって不要な避けたい物事。それらを断るという作業だ。
 こういうとき、恐らく普通の人だったら心中にてんびんが出てくるんじゃないだろうか。引き受けることで発生するメリットとデメリット。同様に断ることで発生するそれら。これらをていねいに吟味して、損得勘定を働かせて引き受けるか断るか判断する。そういう人がほとんどだと思う。

 しかし、これを断るのが苦手な僕がやるとどうなるか。大抵おかしなことになる。なぜなら、断った際に生じる労力というものをてんびんに上乗せしなければいけないからだ。
 例えば僕の場合、断った際の相手の心境というものを慮ってしまう。断ったのだから、当然、頼んだ相手の心中は穏やかじゃないはずだ。後々、面倒なことにならないだろうかとか、この件で報復されるのではないかとか、やや妄想に片足を突っ込んだことを考えてしまいがちなのだ。
 また、ちょっと不必要なほど真剣に断らなかった場合について考え込んでしまう癖が僕にはある。自分があの仕事を引き受けていたら、大成功を収めたかもしれない。飲み会に意外なゲストが来て、ためになる話を聞けるかもしれない。そんな普通では起こり得ないことをつい真剣に考えてしまうのだ。
 このようなことを考えていくと、てんびんはだんだんと引き受ける側が重くなり、どんどん断りづらくなっていく。別に最初から引き受けるつもりならそれでいいが、ちょっとやめとこうかななんて思っていた場合、引くも進むも地獄となってしまうのだ。

 さらにこうなってくると、奇妙かつちょっと恐ろしい考えがわき起こってくる。人に何かを頼むこと、それ自体が実は悪なのではないかという考え方だ。

 嫌なら断わりゃいいじゃん、そう言われても断るにはこれだけの多大な労力を使うのだ。引き受けようが断ろうが、僕の心身はもうズタボロだ。断ること自体にかなりのエネルギーを必要とする人がいるということを、世の人はもっと知っておくべきだと思う。

 でも……。ここで僕は、とある場面を思い出す。ちょっといいなと思った女子を誘う時。ダメ元で、断られることを覚悟して誘っていた自分の姿がよみがえる。彼女たちにとって、あのときの僕は間違いなく、面倒なお誘いをしてくるやつとしか思えなかっただろう。

 そっか。自分もそういう立場になっている時があるのか。意外な事実に恐れおののきながら、あの時の女性はみんな、今の僕のような気分だったのかなと思うと、無性にお酒が飲みたくなった。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅳ 作家名:六色塔