火曜日の幻想譚 Ⅳ
458.一線を越える
みんなが僕を否定しているように思える。
すれ違う人も、その人が連れている犬も、空を舞うハトも、ゴミ収集所を漁るカラスも。思わずみんなに殴る蹴るの暴行を加えたい衝動に駆られるが、そこをぐっとこらえる。こらえながら、どうにか家路を歩いていく。それでも目に入る生物の顔。こちらをさげすむような目つき。そうじゃないんだと言い聞かせながら、力を込めた拳を緩める。分かってる、こういうことは生きていればたびたびあるもんだ。そして、しかるべき行動をすれば、すぐに解決することも。僕は、井戸端会議をしている近所のおばさんに、殺意を隠しながらあいさつをし、たまたま家の前ですれ違ったお隣さんの首を切り落とす風景を脳裏に描きながら、家の玄関に入る。
すかさず服を脱いで、食べたいものを食べて、布団に横になる。少ない過去の楽しかったこと、それだけを考えて。
気がつくと、恐ろしいほどの時間がたっている。もう少し、人を傷つけずにやっていけそうな気もしてくる。そして、いそいそと、再び会社へ行く準備を始める。
こんなやつでも、アパートでは無害な住人としてそこそこ慕われている。実態を知ったら、何らかの病気や気質と判断されるのだろうか、それともただ、追い出されてしまうのだろうか。
まあ、いいか。仮にそうなったら、妄想を現実にするだけさ。