火曜日の幻想譚 Ⅳ
363.家電量販店
お金がなくて、住むところがなくなった。
いろいろと考えたあげく、近所にある家電量販店、あそこに住むことにした。
というわけで目的の店に入り込み、何食わぬ顔で生活を始める。
取りあえず初日は、併設されているゲームセンターでだらだらクレーンゲームをやって過ごす。僕の取った人形を物欲しげに見つめる少女にその人形を全部あげ、僕は天井裏に一時的に隠れる。店員が点検を終えて店舗を閉じたところを見計らって、僕は再び活動しだす。
この店は食べ物や飲み物の販売も行っている。火を起こすコンロもある。インスタント食品であれば、どうにか食べていける。結果的に窃盗になってしまうのは、とても申し訳ないが。
たらふく食べて、そのゴミを処理した僕は天井裏に再び隠れる。こうして、開店の時間まで待ち続けるのだ。
店が開いて2日目。今日はマッサージチェアに1日座って過ごすことにした。途中、常連らしいじいさんとちょっと論争になりかけたが、疲れがよく取れたいい一日だった。閉店間際にまた天井裏に隠れ、閉店後、1日1食の食事を取り、開店の時間前まで眠った。
3日目は、お店の試遊台でゲームをする。上手な僕の腕に、たくさんのギャラリーが集まる。といっても、子どもたちに比べればうまい、という程度なのだが。
4日目。ネットにつながっているパソコンで調べ物をする。余った時間でスマホの料金設定を変更してもらう。
5日目。朝、テレビをのんびり見ながら今日はどうしようかと考えていると、いきなり係員に呼び止められる。ついに来るべきときが来たかと思い、観念して全てを話す。量販店生活の次は、留置場生活かとうなだれながら待っていると、なんと僕の身柄を引き受ける、という人が現れたという。誰かと聞いてみると、この家電量販店の会長らしい。
これだけ店に迷惑をかけたのになんでだろう、そう思いながら会長のもとへと連行される。厳しい顔をした会長が、これまた厳しい目で僕に詰問する。
「店に住んでいたというのは君かね」
僕は頭を深々と下げて謝り、これまでの境遇と、罪はちゃんと償おうと思っていることを話す。その話を聞いた会長は、いきなり大笑いをした後、僕に言った。
「店の手抜かりは、こちらの責任だ、不問にするよ。君には今後、うちの店にそういったすきがないかどうか、各店舗を見回ってほしい。住む場所も給与も用意する、君が契約するならね」
いきなりのありがたい話に、僕は二つ返事でその仕事を引き受ける。しかし、当然のごとく疑問は解消されない。
「あの、何でこんなに僕に良くしてくれるんですか」
その問いに、会長は笑いながら答える。
「わしの孫が、おまえに随分世話になったと聞いたからな」
その時ちょうど、秘書らしき女性に連れられて入ってきた少女は、いつだったかクレーンゲームで取った人形を全部あげた女の子だった。