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火曜日の幻想譚 Ⅳ

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364.妖怪 顔整え



 皆さんは福笑いをしたことがあるだろうか。


 プレイヤーはまず目隠しをする。そして目、鼻、口などの顔のパーツを輪郭に貼り付けていく。そして、完成した顔をみんなでながめるという遊戯だ。完成した顔は大抵へんてこな顔になるので、大爆笑になる。そんなお正月の遊び。

 だが時々、驚くほど顔の造形がうまくいってしまい、特に笑いも何も怒らないことがある。目隠しをしながらパーツを貼り付けて、整った顔ができる確率は超がつくほど低いはずだ。ということはこの現象が起こるのは、何らかの力が働いていると言っていい、そう、妖怪の仕業である。

 だがこの妖怪、まだ名前が付けられていない。この場は便宜的に『妖怪 顔整え』と命名しておく。

 この顔整えは長年、正月の貴重な娯楽をつまらなくさせてきた。しかし近年は、福笑いをやる家庭も少なくなった。そんな昨今、顔整えはどこで何をしてるのだろうか。

 推測の域を出ないが、きっと彼らは今イラストレーターに飼われているんじゃないだろうか。

 イラストレーターのかたがたは目隠しをしていないとはいえ、常に絵筆で福笑いをしているようなものだ。それなのに、素晴らしく美しい人物や風景を描いてくる。しかも同じキャラをさまざまな角度で寸分の狂いもなく描き上げてしまうのだ。そのさまは、妖怪の力なくしては不可能なのではないかと思う。

 きっと職にあぶれた顔整えは、改心して彼らの懐に抱かれながら、私たちに素晴らしい絵を提供してくれているに違いない。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅳ 作家名:六色塔