火曜日の幻想譚 Ⅳ
371.個人情報
夜、電気を消して布団にもぐったら、外から声がする。
何だと思って聞き耳を立ててみると、
「どうしたらいいかな」
なんて声が聞こえてくる。どうやらスマホで誰かに電話をして相談をしているようだ。気分転換とか、たばこを吸うついでとかで外に出て、誰かと電話をしてるのだろう。しかし、もう時間は深夜。話し声は恐らく近隣中に響き渡っていることだろう。
当然、布団の中でうつらうつらしている僕の耳にも、その会話の断片は聞こえてくる。
「ああ、その手もあるか。でも、それ、すぐ足、ついちゃうんじゃない?」
足がつく? 何やら物騒だ。思わず眠気もさめて、会話に耳をそばだててしまう。
「やっぱり埋めるのが一番か。ここ、海まで遠いしなあ」
…………。これ、本格的にやばいやつじゃないのか。思わず起き上がり、カーテンを開こうとするが、寸前で思いとどまる。
(開いて目があったら、まずいんじゃないだろうか)
なにせここは住まいだ。家がばれたら本格的に危ない。「何か」を埋めようとしている人に個人情報が漏れたら、もう目も当てられない。
そうこうしているうちに、通話は終わったのか、会話はなくなり、僕はおびえながら眠りについた。
しばらくして。
ぼんやりテレビを見ていると、聞き覚えのある言葉が耳に飛び込んでくる。そうだ、こないだ深夜に聞いたあの会話の断片。音の出どころは、テレビの音声。ドラマで殺人犯が死体の処理に困って誰かに相談している風景だった。
演じている役者さんを見てみると、確かに近所で何回か、見た覚えがある。どうやら、俳優業のようだ。
恐らくあの夜、気分転換に外で演技の練習をしていたのだろう。自分の個人情報がばれそうになったことから一転、意外な人の個人情報を知ってしまった事実に、僕はちょっと苦笑いした。