火曜日の幻想譚 Ⅳ
372.星の営み
ふられたときなどに、よく「異性なんて、星の数ほどいるじゃないか」的なことを言うだろう。
実際には星の数のほうが圧倒的に多いらしいが、言いたいことはそこじゃない。そういう心持ちで次の異性を探し求めようという意味であることは、察しの悪い僕でも理解しているつもりだ。
われわれ人間はこういう考え方だが、星のほうはどうだろうか。彼らも折に触れて、「星なんて、人の数ほどいるじゃないか」みたいな、いや、数的に言い直せば「星なんて、人の数以上にいるじゃないか」的なことを言って、慰めたりしてるのだろうか。
例えば、ある恒星とある恒星が、その重力でもって一つの星を奪い合ったとする。ターゲットの星は、長い年月をかけてどちらかの恒星に誘引され、最終的にそこの惑星となるわけだ。すなわち、恒星間で勝ち負けが発生する。勝ったほうはウハウハだ、それでいい。だが、憧れのあの星ちゃんをゲットできなかった敗北星はどうだろうか。愛するあの子が、大好きなあの子が、重力にひかれてクルクル回るさまを、ただ指を加えて見ていなくちゃならない。これほど悔しいことはないだろう。そんなとき、そいつの友人星はぼそっとその傷心星に声をかける。
「星なんて、人間の数以上にいるじゃないか」
……そう。そうだよな。人はせいぜい億単位。でも星は億×億の単位で存在しているんだ。人間よりはるかに選択肢はある。これから出会う星の中には、もっと好みの星もいるはずだ。たくさん出会って重力で巻き込んでいこう、すてきな恒星生活をエンジョイするために!
こんなドラマが、あちらこちらの銀河系で行われているのかもしれない……わけないよね。