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火曜日の幻想譚 Ⅳ

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470.昼食問答



 ある男が昼食を食べてウトウトしていたら、知人がやってきた。

「やあ。元気にしていたかい?」
「いや、相変わらず胃が悪くてねえ」
「そうか。僕は昼食を食べてから眠くて仕方がないよ」
「ほう、昼食に何を食べたんだい?」
「大層なものなんか食べちゃいない、牛丼を取り寄せたよ」
「ああ、そりゃあ良くないね、どうりで眠いわけだ」
「ん、何でだい?」
「炭水化物とたんぱく質を一緒に取ると、眠くなりやすいのさ」
「そんなことを言ったって、牛丼は僕の好物だし、おいそれと食べるのをやめられないよ」
「だから、牛と飯を分けて食べればいいのさ」
「牛皿とご飯で食べればいいということか」
「できればサラダも付けてね」
「君はどうなんだ。そこまで言うからには、よほど品行方正なもんを食べてるんだろうね」
「僕かい。僕はさっきも言った通り胃が悪いからね。普段からあまり食事はとらないから、昼食なんてまず食べないよ」
「ほれみたことか。君も十分ひどいじゃないか」
「でも、あの徳川家康も『及ばざるは過ぎたるより優れり』なんて言っている。食べ過ぎるよりは食べないほうがまだいいよ」
「僕は食べすぎていない。ちゃんと適量を食べている」
「その腹を自分で見てご覧、適量でないことは明らかだ。それに空腹でいると、頭がさえるし、集中力も増す。いい事だらけだよ」
「…………」
「君も僕を見習って、少しは食べるのを控えたほうがいい。そうすれば、頭もさえてこのような議論にも集中できるようになるんだから」

 知人は高笑いし、これ以降も、男に小食や空腹の素晴らしさを散々説いてから帰路に就いた。ところがその途中、あまりの空腹で倒れてしまい、そのまま亡くなってしまった。

 知人の死を聞きつけ、葬儀に訪れた男は、
「試合に勝って、勝負に負けた気分はどうだい?」
と知人の遺影にニヤニヤしながら問いかける。

 そして、葬儀で出たすしをたらふく食べた帰り道、こちらも消化不良で亡くなった。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅳ 作家名:六色塔